私たちはみんな行方不明

謎崎実

プロローグ

 仕事終わりの帰り道、二車線道路をアクセル全開で駆け抜けた。

 ヤケクソに法定速度60キロの道を100キロという猛スピードで走っていると、ルームミラー越しに黒い乗用車が速度をあげて近づいているのが見えた。グリル、ナンバー、二人組の人影。密かに感じる嫌な予感は間も無く的中した。

 次第に後ろを走る黒い乗用車のルーフが赤く光ったのが、ルームミラー越しに目に入った。急いでブレーキを効かせてスピードを落とすも、すでに手遅れだった。

 夜のバイパスに鳴り響くサイレン音。拡声器から聞こえる指示に従い、車を路側帯に停めた。


「こんばんはお兄さん、急いでましたか?」


 優しく声をかける警察官に対して、前を向いたまま静かに頷く。


 パトカーの後部座席へと場所を移し、警察官から今回の処罰の詳細を伺った。

 29キロオーバーの違反点数三点。反則金は一万八千円だ。最後の足掻きでスピードを落としたのが免許停止を免れた不幸中の幸いだった。


「ゴールド免許なのに勿体無いですね。仕事帰りか何かですか?」

「ええ、まぁ」

「差し支えなければ、お仕事は何を?」


 今日で一番聞かれたくないことを聞かれた。

 沈黙の空気が流れる車内で、一度だけ深呼吸をして横に座る警察官の目を見た。


「いえ、無職です。今日、仕事をクビになったものですから」


 冗談めかしながら、冗談であってほしいことを淡々と告げた。

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