番外編 境界線を越えて。「プロローグ」
燃え上がる炎が、真っ暗な研究所の廊下を赤く照らし出す。
そこはまるで、地獄絵図のように惨憺たる光景だった。
炎の勢いは、巻き上がる風と共に更に激しさを増し、その風に乗った火の粉が次々と新たな場所に襲いかかる。
地面には消火の跡と思われる濡れた箇所もあったが、そんな僅かな水では炎の猛威を止めるには至らない。
分厚い鉄製の壁には、圧倒的な質量をもった“何か”がぶつかったかのような無数の衝撃痕が刻まれている。
そんな荒廃している空間に、一人の少年が地面に這いつくばっていた。
胸や首には深い傷。
黒髪は血と水で濡れ、意識は朦朧としていて、少年は、立ち上がることすらできない状態であった。
彼は、自分の“終わり”が近いことを悟っている。
周囲には、同じ年頃の男女の遺体が、六つ転がっていた。
損傷が激しく、誰かを特定することすら難しい。
だが、少年は理解していた——彼らが、自分の大切な“家族”であることを。
少し離れた場所には、栗色髪の少女が座り込み、嗚咽を漏らしながら両手で顔を覆っていた。
彼女は、家族の無惨な姿を直視することができなかった。
倒れこむ少年の目の前には、二人の人物がいた。
一人は全てを見下しているような冷淡な瞳に無表情の男。
この惨状を引き起こした張本人である。
だが、その目には一片の感情すらも見られなかった。
もう一人は——その男の前にいる。少年を守るかのように背を向けて立つ黒髪の少女。
彼女は、全身から放電し、その影響か髪が僅かに逆立っている。
その光景は、まるで彼女の怒りが視覚的に表現されているかのようだった。
そして、少女がわずかに振り返る。
黒髪の少年の視界に、彼女の表情が飛び込んできた。
その顔には、激しい怒りと深い悲しみが交錯している。
心の底から湧き上がる憎悪が渦巻く瞳。
今にも溢れそうな涙を押しとどめようと、眉間には深く皺が寄り、唇はぎゅっと噛みしめられている。
だが、頬を伝う一筋の血混じりの涙が彼女の感情、そのすべてを物語っていた。
絶命寸前の少年は、彼女の姿を見つめながら、心の中で呟く。
(セリア……いっちゃダメだ……君には……笑っていて欲しかった)
——少年はその願いを、言葉にすることもできず、意識を手放した。
ーーーーーーーーー
この物語は、輪廻転生をしても、過去の記憶を忘れることさえ許されない少年、リクの物語。
これは、そんな少年の心の奥、底に焼きついた、過去の記憶の一ページ。
そして、物語は現代に戻る。
ーーーーーーーーー
前線基地ティップ。
ここは人類の敵と戦うために、複数の国家が共同で設立した軍事都市である。
巨大なビル群が立ち並ぶ、この都市の空に、奇妙な動きを見せる人物がいた——。
——Coming soon。
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。
「境界線を越えて。」の発表については、まだどのような形で行うかを決めかねておりますが、妥協なく取り組みたいと考えているため、ある程度章を重ねてからの公開を予定しています。
なお、「境界線の向こう。」はカクヨムにて引き続き、発表する予定です。
その際には、読者の皆さまが気になるであろう合同訓練や研究所内の描写も、より深く掘り下げていければと思っております。
沢山の応援とレビューを、本当にありがとうございました!
それでは、またお会いしましょう。
境界線の向こう。 古道 ひかる @kyoukaisen
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