カクコン11短編『茜旅エクストラ/金沢編-ビックフィッシュとペガサス13星』

宮本 賢治

茜旅エクストラ

真っ白な白暖簾に黒地で

『めしや 居酒屋魚界人』

わ〜、テンション上がるわ。

また、きちゃった金沢へ。


内山 茜(あかね) 25歳。

普段は都内で商社に勤めている。

趣味は女1人、自由な気まま旅。

SNSでいつも、今度はどこいこっかなって検索してる。

さて、今回の行き先は···


きちゃったよ、金沢。

今回の目的は1点集中。

SNSでメッチャ気になったお店で、美味しいもの食べちゃいます。

だって、ボーナス出たもん。

フフフフフ。

宵越しの金を持たぬ女。

それが茜ちん。

こんにちは〜♪

予約を告げると、カウンター席に通された。

入口から入って、右手にL字のカウンター席。奥にはテーブル席。

壁にギャラリースペース。お皿や器がライトアップされてディスプレイされている。

カウンター席の奥はオープンキッチン。カウンターにそって配置された鍋で金沢おでんが湯気を上げている。

このお店、大人にならないと入れない。

R-20指定の和食屋さんなのだ。

ちょっとエッチいね。 

金沢の繁華街、片町。その裏手にある裏片町という地名も通っぽい。

落ち着いたインテリアと照明。

大人の雰囲気。

お店のお姉さんが、何か持ってきた。

木の箱を開けると、九谷焼の箸置きがズラッと並んでいる。

この中から、好きな絵柄の箸置きをチョイスするらしい。

伝統的な柄や、浮世絵版画の絵などの中で、アニメのドラゴンボールの絵柄があった。

カメハウスを眺める亀仙人。

コレだ、これにしよ!

武天老師様。

そして、おちょこも選べる。

箸置きが派手だから、じゃ、このシブいのにしとこ。

え、冷酒飲むか?

飲むに決まってんじゃん!

あ〜!!

おちょこを没収された!

え? 冷酒はこのグラスの中から選ぶの。

じゃ、コレ。

紺色にピカピカ過ぎないくすんだ色合いの金色でお花が描かれたこの九谷焼のグラスをチョイスした。

スッゴいな。

お食事前から楽しいお店。

あ、生ビールがきたぞ。

じゃ、いただきま〜す♪

ング、ゴクゴクゴクゴク···

んまい!

ヤッパ、夏は生だな。

カウンター席の隣のカップル。

お姉さんがでっかい丸いブランデーグラスに入ったキレイな色のフルーティカクテルを飲んでる。

アレ、おいしいのかな?

でも、わたし、甘いお酒飲めないんだよな〜。

そう、かわいげのない女なのさ。

あ、金時草のおひたしがきたぞ。

葉っぱは普通の色なのに、器にたまってる汁の色が鮮やかな紫。コレ金時草から出た色かな?

じゃこがかかって美味しそう。

いただきます。

あ!

ねっとりしてる。

金時草は加賀野菜。地元にしか出回っていないから、石川県でしか食べれない。

次に金沢おでんがきました。

大根、しらたき、ウインナー、つくね串、バイ貝、卵焼き、車麩、そして、赤巻串。

赤巻串は蒲鉾が串に刺さったおでん。北陸の蒲鉾は白いすり身と組み合わせた赤い食紅で色をつけたすり身で渦巻き模様が描かれている。ナルトみたい。味も弾力があっておいしい。

ここで、冷酒登場!

今日は石川のお酒。天狗舞の五凛、純米大吟醸です。

わ、軽やかだけど、旨味がある。いいお酒だな。

お姉さんがアナウンスにきた。

「お造りの準備ができました。

お持ちしても、よろしいですか?」

「え? はい、ぜひ!」

「では、お持ちいたします。

そのとき、こちらのミラーボールが回りますので、そちらもご覧ください」

はにゃ?

ミラーボール?

確かにカウンター席の頭上にミラーボールがある。

そして、真打ち。

お刺身盛り合わせがきました。

よ、待ってました♪

ん?

天井を見上げる。

ホントだ、ミラーボールが回ってる。テンション上がるね、この演出。

お刺身盛り合わせは九谷焼の大皿に盛りつけられてやってきた。

雪囲いをイメージしてるのかな。

簾を丸め、三角すい状にしてあるその中にはドライアイス。白い煙が上がっている。

お皿の中央に小さな小壷。その中には特製のお醤油と小さな刷毛が置いてある。

そしてネタは、マグロ、キンメ、白身、タコ、甘エビなどなど。

木の小さいスプーンにはウニが入っている。

こりゃ、おいしそう!!

特製のお醤油はマグロによく合うらしい。この刷毛で塗るのね。

そして、ウニには岩のりの佃煮が添えてあるそうだ。

白身、タコ、甘エビ、キンメ。

そこまで食べたら、添えてある箸休めの甘い卵焼きを一口。うん、優しい。

そして、ウニ。

あ、岩のりと合う!

すかさず、天狗舞。

あ〜、口中にウニの旨味が広がって、サラッと消えていく。

最後は、マグロ。

おいっしい! 

血の味がする。鉄の味がする。

あ、もう一個の真打ちがきた。

じゃ〜ん!

『能登牛イチボのとろけるユッケ〜♪』

コレはテッテレ〜だわ。

九谷焼の丸皿にほとんど見た目生みたいなキレイにサシの入ったイチボのスライスが5枚。割り下に浸かっている。そして、肉の上には卵黄が乗っている。

箸で卵黄をわる。流れ出す黄身。

それを肉にからめて食べる。

やわらかい。口の中でとろける。

割り下の甘さ、肉の甘さと旨味、それをまろやかな黄身が包みこんでくれる。

『これは人間をダメにする味だ」

···おや? お隣の席、カウンターから板前のお兄さんが何か出した。

鯖の棒鮨。そして、手にはトング。そのトングは炭をつかんでる。ジュ〜! 棒鮨に炭火を当てて炙ってる。メッチャ香ばしい。

いいな、あれ!

わたしも頼もうかな。

そこへ再び、お姉さん登場。

なにかスッゴいの持ってる。

なにソレ?

マグロのカマ焼き。

巨大!!!!!

軽く、30センチを超えている。

皮はパリッと、身はスッゴく脂がのってる。おてんこ盛りのかき立てのかつお節と、大根おろしが頼もしい。

おい、茜ちん、やっちまったな。

1日3本限定! まるごと一匹のどぐろの一本焼きが売り切れだったから、本日の焼き魚なんですかって聞いたら、コレだよってお姉さんがいうから、あまり考えずに頼んでしまった。

丁寧な接客と、言葉づかいのお姉さん。去り際にちっちゃな声で、

ファイトっていい残した。

お姉さん、かわいい♡

でも、こんなの食べきれないぞ。

どうしよ。

入口に新規のお客さん。

外国の方々。

2人の白人のおじさんと、1人の白人のおばさん。

おじさんは顔がそっくり。ご兄弟みたい。身長が少し違う。高いほうが白髪で、低いほうが金髪。

ご一行様は、お姉さんの案内で奥のテーブル席へ。

わたしの後ろを通るとき、白髪のおじさんがカウンターテーブルの料理を見ていった。

「オー!

ビックフィッシュ!!」

そういって、3人ハッハ〜♪と陽気に笑っている。

テーブル席につくと、あのお姉さんがペラペラの英語で会話している。

そ〜だ♪

会話が途切れたのを見計らって、わたしはお姉さんを呼んだ。

すると、お姉さんはわたしの発案を3人に伝えにいった。

白人のおじさんが立ち上がって、

カモ〜ンといった。

わたしの発案は、食べきれないから、このマグロのカマ焼きをよかったら、召し上がりませんかと伝えてだったのだけれど、それだったら、一緒に食べて飲もうよとお誘いを受けたみたい。

そりゃ、もちろん行くでしょ!

文化交流だぜ♪

わたしはビックフィッシュを持って、テーブル席に向かった。

3人とも、満面の笑顔で迎えてくれた。


それから30分くらい一緒に飲んだ。

大根おろしにお醤油かけて、お魚と一緒に食べるとおいしいよから始まり、ジェスチャーとインチキな英語でコミュニケーションはとれた。

お3人は、アメリカからの旅行者で、白髪のトムさんと金髪のマイクさんはご兄弟。女性はマイクさんの奥さんのメアリーさん。

トムさんの奥さんは早くにお亡くなりになったらしい。

わたしは結構食べたし、飲んだしで先に帰ることにした。

じゃあ〜ね〜♪

みんなで手を振り合う。

すっかりお友達。

お会計するとき、レジをしてくれたお姉さんにこのへんにバーありますかと聞いたら、教えてくれた。

金沢の夜、しめにキックの強いカクテルの1杯でも飲みたいじゃないか。


バーに到着。

看板はスイーツバーとなってる。

中に入ると、カウンターとテーブル席。

わたしはテーブル席に案内された。

他のテーブルで女の子たちがパフェを食べてる。カウンターでは、カップルがカクテルを飲んでた。

その店は照明控えめで、プロジェクターで壁に映像が流されていた。音声はないけど、その映像は『もののけ姫』だった。

わたしはマティーニを頼み、それを飲みながら、ボ〜っとその映像を見ていた。

店に小さめの音量で流れるジャズ。

それが気にならないくらいに、わたしは映像だけの『もののけ姫』に夢中になった。途中から見たけど、お尻に矢が刺さったヤックルが健気にアシタカについてこようとする。

殻付きピスタチオ。

殻を剥いて食べる。

気づけば、最後まで見てた。

その間、マティーニを4杯。

飲み過ぎだな。

コダマが頭を振り回している。

カラカラと

音が聞こえてきそうだ。


さて、宿に帰ろと歩き出した。

すると、聞き慣れた笑い声が聞こえた。

ハッハ〜♪

トムとマイクとメアリーさん。

3人はカラオケボックスの前にいた。

オ〜、アッカ〜ネ♪

これからみんなでカラオケをするらしい。しかも、アニソン縛り。

ヤバい、メッチャ楽しそ〜じゃん。


激しいドラムとギターリフ。

気づけば、わたしはワンピースにちょっと高めのサンダルというスタイルで、両手を大きく使ってペガサスの13の星の軌跡を描いていた。

放つぜ、流星拳!

「聖闘士星矢〜!!」

わたしの絶叫にみんなが喝采する。

「抱きしめた〜♪

心の小宇宙〜♪

熱く燃やせ〜♪

奇跡を起こすぇ〜ぃ♪」

······はばたけぇ〜

むにゃ、はにゃ···

はっ!

寝てた。

ヨダレ。

ハンカチで拭く。

わたしは会社のデスクで寝ていた。

修理明けのアップルウォッチを見ると、お昼休みを過ぎていた。

いっけない。

は〜、夢だったのか。

けど、メッチャ楽しい夢だった。

ん? わたしのデスクの向かいのかわいい後輩、みなみちゃん。

なんか、様子が変だぞ。

申し訳なさそうに無言で小さく、左右の人差し指を立てている。

ん〜? 何なのかな?

みなみちゃんがゆっくり頭まで人差し指を上げた。まるで鬼みたい。

鬼?

みなみちゃんが手を下ろし、わざとらしく仕事を開始した。

わたしの背後。

負のオーラを感じる。

振り向くと、課長が鬼の形相だった。

ヤッバい、これクドクドいわれるパターンだ。


あ〜、

旅に行きたい!


了👀🧳♪

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