お前のくせに、似合ってる

※本作は、『俺たちは、壊れた世界の余白を埋めている。』の非公式短編集です。

本編において非BLで描かれている、鷹宮ルカと芹原ナオの関係性を、“感情の供養”という形で綴っています。

恋愛描写はありませんが、衝突・依存・距離の歪みなど、人によっては特別な温度に感じられる場合があります。

ご理解のうえ、解釈は各自にお任せいたします。


 


「なぁナオ、これ、似合ってると思わねぇ?」


「……なにそれ」


ルカが見せてきたのは、薄いグレーのパーカー。

フードの内側だけ、こっそり柄入りのやつだ。


「部屋着にちょうどよくてさ。朝ナオのと間違えそうになったけど、こっちは俺の」


「……俺のとほぼ同じじゃないか」


「うん。でも俺の方が似合「ないな」」


「……最後まで言わせろよ、くそ」


 


ナオは無言で立ち上がり、

すれ違いざま、ちらとルカの胸元を見下ろした。


「……まぁ、“お前のくせに”似合ってる」


「その一言の中に、何段階の侮辱と褒めが混ざってんだ?」


「うるさい。似合ってるって言ってるだろ」


「…じゃあ着せろよ。お前の手で、俺に。言葉だけとか不誠実だわ」


「着るくらい自分でやれ。五歳児か」


「ダーリンの愛が足りないぃぃ……」



ルカは大袈裟に膝から崩れ落ちる。

ナオは呆れたように、パーカーを奪い取って広げた。


「貸せ。腕通せ」


「……愛感じた!」


「うっかり首の紐締めすぎるかも」


「そこまで愛されてる気がしてきた!」


「じゃあ死ね」


「素直じゃねぇなぁ」


 


二人の会話は、どうしようもなくくだらなくて。

でも――その温度だけは、どこまでも本気だ。


ナオは、ルカのフードを軽く引っ張って直した。


「……似合ってる。ちゃんと」


「……ん?なんて?」


「それ聞こえなかったフリだろ、知ってる」


「それが愛ってやつだろ」


「黙ってろ」


 


だからきっと、明日も。

似たような服で、隣にいる。

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