⑤ SIDE: ユウ

 友人に肩を揺すられて、目が覚めた。見渡してみると、そこは学校の体育館だった。知らずのうちに眠っていたようだ。

「教室に戻るんだってさ。遅れるよ?」

 彼女はそう言いながら、私の顔を覗き込んだ。私はまだ呆然としていて、言葉が出てこなかった。思考にはまだモヤがかかっている。意識は徐々にクリアになって来ても、困惑は深まるばかりだった。

 私はハッとして周りを見渡す。みんな、みんないる。同級生や先生方が視界に入って、心底ホッとした。ああ、良かった。全部夢だったのか。それにしても、リアルだった。じゃあ、弟も、品川先生もみんな無事なんだ。

 安心する反面、こっちが夢だったらどうしようと思って、私は自分の頬をつねるのが、恐ろしくてできなかった。

「もー、ほんとに何してるの!」

 友人は、私が寝起きでボーッとしてるとでも思ったのだろう、ぐいぐいと腕を引っ張った。しぶしぶ立ち上がる。

 セミがうるさく鳴いていた。体育館は空調が効いておらず、蒸し暑かった。

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