③ SIDE: ユウ
起き上がると、自分の家にいた。
長時間寝ていたのか、頭がじんわりと痛む。たしか私は、電車の中で眠ってしまったはずだ。なのに家で目が覚めたということは、あれはもしかして、全て悪い夢だったのだろうか。私は枕横のスマホを持ち上げた。
時間を確認しようとホーム画面を開き、目を疑った。時刻を表すはずの数字が、毎秒、法則性もなしに入れ替わっていく。1:25、19:66、42:01……。
「ひっ」
私は小さな悲鳴を上げて、スマホを床に落とした。
スマホをそのままに、とりあえずテレビをつけてみるも、砂嵐だった。チャンネルを何度変えても砂嵐で、ついに1周してしまった。
何かがおかしい。
外はまだ明るいから、弟は学校に行っている時間だろう。私はなんだかすごく不安になって、学校まで歩いて行ってみることにした。
玄関を開けて外に出たとき、違和感に気がついた。静かすぎるのだ。
真夏だと言うのに、セミの声すら聞こえない。外を歩いても、誰もいない。私は怖くなって走り出した。
誰かいないのかと必死で探した。金田さんの家のチャイムを押しても、誰も出ない。玄関には鍵がかかっていて入ることができなかった。
人どころか、犬や猫、虫すらも見かけない。
もしかして、弟も消えてしまったのではないかと思い、駆け足で学校に向かった。
校門まで行ってみるも、やはり物音1つ聞こえなかった。普段なら授業をしている時間だというのに。
体育館を覗いても空っぽだった。きっとここには誰もいない。みんなどこに行ってしまったのだろうか。
私は街を彷徨いはじめた。いつもなら魚が泳いでいる川に沿って歩き、最寄りの地下鉄の入口を覗くも、駅員さえ見つからない。
スーパーも、コンビニも、商品は置いてあるようだが、誰の気配もなく、自動ドアも開かなかった。まだ明るいのに、まるで街ごと営業終了した深夜のようだった。
私は、最後の望みをかけて家に帰ることにした。もしかしたら、家族が帰ってきているかもしれない。
日が傾きかけていた時だった。自宅が見えてくると、後ろからドン、ドン、ドン……と固いもの同士がぶつかる鈍い音が連なって聞こえた。
それは止まることなく、こちらに近づいてきている。考える間もなく走り出していた。
桜の木を通り過ぎたところの曲がり角、カーブミラーに目をやる。映っていたのは、顔のような彫りがある石の塊たち――
ざっと10体ほどだろうか。私の膝の高さより小さいくらいの彼らは、左右に揺れながらガタガタ音を立てて私を追いかけてくる。
私はそのまま流れに身を任せて走り続け、学校の中に逃げ込んだ。正門をくぐり、玄関を内側から急いで施錠すると、それ以上道祖神は追いかけてこようとはせず、背を向けて帰っていった。
だんだん暗くなってくる。逃げ切って一息つくと、急激にお腹が空いてきた。今日はそういえば朝から何も食べていない。私は校内を探索することにした。
人のいない校内に、靴の音が妙に響いた。
まずは、職員室に向かってみることにした。食べ物がどこにあるか分からないが、職員室に行けば先生がこっそり持ってきたお菓子くらいはあるかも知れないと思ったからだ。
職員室があるのはどうやら2階だったはずだ。私は階段を上りはじめた。
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