② SIDE: 品川

 学校には常設のダンボールベッドや保健室のベッドがあったが、なかには呑気なことに家から布団を持参する人もいた。

 地震や津波と違い、ライフラインが途切れなかったのは不幸中の幸いだった。

 日が沈み、直に夜になる。怪物が消えてから数時間経っていた。大型の扇風機はあるものの、エアコンのない体育館はものすごく暑かった。学生の多くは教科書やノートで風を仰いでいる。

 僕は一旦校舎に戻り、職員室のベランダから、向こうの街を眺めていた。一瞬にして、消え去ってしまったなんて、信じられない。

 あの巨大生物はなんだったのだろうか。どこからやって来たのだろうか。ポケットからタバコを出した。1本取り出して火をつけ、人差し指と中指で挟んだ時、手首をガッシリと誰かに掴まれた。

「校内は禁煙ですよ」

「手厳しいですねぇ……」

 僕の同僚であり、尊敬する先輩でもある岡本先生だ。しばらく生徒の安否確認でバタバタしていたが、市の災害対策本部と連絡を取るためか、職員室に戻ってきたようだ。

「これから毛布と乾パンを配るから、品川先生も手伝ってください」

「分かりました」

 僕はベランダのへりにタバコを押し付け火を消してから、早足の先生を追いかけた。


 夜になり、騒がしかった体育館も段々と静かになっていた。セミの鳴く声が焦燥感を掻き立てている。

 僕は見回りを終えると、仮眠している他の先生の肩を叩いて起こした。今度は僕が仮眠をする番だ。体育館の隅っこで、大の大人たちが壁を背に丸くなって寝ている。僕もそこに加わった。

 本当は緊張して気が気ではなかった。

 それでも、目を瞑るだけでも身体を休めることに繋がる。僕達教員がよく受験前日の学生にするアドバイスだ。目をギュッと瞑る。もし目を開けたら、全開の窓からアイツが覗いているんじゃないか、そんな想像が頭をよぎり、身震いする。

 それでも、恐怖より疲労が勝ったのだろう。そのうち強い眠気に襲われて、僕は深い夢の中へと落ちていった。

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