第3話
「雉妻瑛太さんですね」
俺は衆議院選挙の投票に来た。
対応するのは今回もまた、元カノである船橋育代。
あれから半年、育代は元気にしていただろうか。
「それと雉妻良枝さんですね」
声の調子はいつもの育代だ。
特に怒りや悲しみは感じられない。
それどころかいつもより穏やかにも思える。
「言うのが遅くなったけど、結婚おめでとう」
育代の柔らかな笑顔。
久々に見ることができて嬉しさと同時に懐かしさを覚える。
「ごめんなさい瑛太。私は離れてからもずっと瑛太のことが好きだったの。だけど、自分の気持ちばっかりで瑛太の気持ちを考えてなかったよね。今になってやっと分かったわ」
反省の弁を述べる育代に俺も応える。
「俺の方こそ、もっと気持ちを言葉にするべきだった。君にはもっと相応しい人がいる。もっと相応しい生き方がある。俺なんかのために人生を狭めてほしくないんだって、俺はそれが伝えたかっただけなのに……!」
目の奥に熱いものがこみ上げてくる。
俺は最後まで育代の前で格好つけようとそれを堪えた。
「今までありがとう瑛太。これからはあなた無しの人生を精一杯楽しんでみるね!」
育代の笑顔に涙が混ざる。
それを見た上で格好をつけれるほど俺は我慢強くはなかった。
「良枝さん、瑛太の幼馴染としてあなたにお願い……!瑛太を絶対に離さないでね!絶対に瑛太と幸せになってね!」
良枝もまた、大粒の涙を流しながら何度も頷いた。
なんなら、なぜか一番泣いていた。
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