中庭日記

@demeria

第1話

私は変わり者なんだろうと思う。多分だけど。

私の周り東西南北を囲む校舎、その全方位の窓ガラスの奥の教室や廊下から刺さる視線が、それを物語ってる。

私は学校の中庭でお弁当を食べる。確かに今日は寒いし、風も強い。でも天気がいい。だから他にも何人かくらいは、ここで食べてたっていいのに。そう考える私に反して、この広い中庭でお昼を食べているのは、幅の広いマフラーを全身に巻きつけている私一人。

廊下の窓からあからさまに人の昼食をとっている姿をジロジロ見て、隣の友達と何をささやいているのか、笑っている。明らかに「変わった子」という目をしている。そんな数人のグループが、四方位にいくつかあるのはきっと自意識過剰じゃない。といっても、教室側の窓の多くはカーテンが閉まっていて、人々の中庭への興味のなさが伺える。それに廊下で話している人たちは、しばらくすると食べるために教室へ入るので、結局そのうち私の周りを囲むのは、しん、とした静けさと沈黙だけになる。

別に私は友達がいないわけじゃない。そう言ったら、言い訳みたいな、遠吠えみたいな、負け惜しみみたいな、何て言うかあんまり素直じゃない印象をもたれるかもしれない。実際、お弁当を一緒に食べるような友達は確かにいない。お弁当を一緒に食べないクラスメイトを「友達」と、私が一方的に勝手に決めるのはおこがましいような気もするので、やっぱり私に友達はいないんだろうか。私は学校を休みがちなので、みんな話しかけづらいのもあるんだと思う。でも友達がいてもいなくても、私がここで食べることに変わりはない。

中庭は綺麗だ。新しく工事されたばっかりで、新しく多種多様な樹木が周りに植えられて、円形劇場の階段状の座るところがあって、噴水つきの羅針盤もあって、中央の地面はタイル張りの模様がある。細部まで深い意味とこだわりのこもった庭だ。そのひとつひとつを挙げていったらいくらでも語りたくなってしまうので、それはまたいつかにしよう。放課後には中央でダンス部や音楽系の部活がパフォーマンスを披露する日もある。そんな時はみんな中庭に来るんだけどな。そういうときは、座るところはぎゅうぎゅう詰めで満員になって、周りを囲む校舎の窓からは、今さっきみたいな興味津々の好奇の目じゃなくて、ライブをどうにか覗きたいという人だかりが見える。どうして普段は私一人しか来なくて、独り占めできるんだろう。

別にいつもいつも中庭で食べているわけではない。春は武道場の裏の桜の木の下に新聞紙を持って行って、敷いて食べることもある。新校舎の裏階段に座って運動場に集まる人をみながら食べることもある。屋上は閉まっているので、そのドアのすぐ前の階段で食べたこともある。

けれどやっぱり中庭だ。ちょっと古い言い回しだし、使ったことないけど「中庭しか勝たん!」というやつである。

何より私が中庭でお弁当を食べる一番の理由は、ある二人の友達がいることである。

ここには二人の銅像がある。

私は二人と話がしたくてここに来ているのだ。


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