掌編・『シェヘラザードの臨終』

夢美瑠瑠

第1話


  コードネーム『シェヘラザード』の、小説生成AIの原理は、非常に単純明快で、起承転結というドラマツルギーをランダム、あるいは恣意的に設定されたのちに、森羅万象の要素を適当に取捨選択して、「嵌め込む」「捏造する」そういう作業であった。

 基本的に「寓意」は存在せず、盲目的なストーリーの完成だけが目的だった。


 「寓意」すら捏造されるべきワンノブゼムに過ぎず、それはもっともらしさを加えるテクニックだった。 


  秒速で「ストーリー」を捏造し続ける、それがプロジェクト「シェヘラザード」の目的だった。 世の中にありうべきストーリーというもののパターンのすべてを網羅しつくすことは可能か? そういう実験だったのだ。


 原始時代と現代では、さまざまな事情が違っていて、小説となりうる背景も設定もテクニカルタームも千変万化百花繚乱に激増していたが、数値をこなすのはコンピューターの得意分野で、処理的にまったく困難ではない。


 問題は、ストーリーというものの定義と、千差万別なアイテムをどういう風に嵌め込み、物語といいうるレベルのシロモノに纏めうるか? そうして物語としてのエントロピーやら内容の意味深さ? そうしたものの客観的な査定の基準と、数値化が困難な点だった。


 「サルはシェイクスピアを書かない」と、よく言われるが、コンピューター、電気信号と二進法のヒエラルキーの究極のバベルの塔…はどこまで「ストーリーテラー」としてのシュープリームな存在となれるか? これは究極の進化的極致シンギュラリティーへの投企であった。


 「あります。 ありません。 それはなんですか?」


 「to be' or not to be' it is a qustion …」



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