第7話『強化』なのか
「もう少しスマートにやれないもんかねぇ」
おれは倒れた大柄の顔に片手を当てて『
ミナトはなにも言わない。
「さて、本当にどなたもいらっしゃらないですかねー」
そのリアクションは予想通りだったので、おれもなにか言葉を重ねることはしない。ミナトが踏み込もうとしてできなかったカウンターの奥へ足を向ける。
これだけの大騒ぎをしても誰も出てこないとなると、本当に誰もいないのかもしれない、と思いはしたが、ならこのデカブツはなんのためにいたのか。それが気になった。
カウンターの奥にはあの大柄が通れる程度に大きい両開きの扉があり、おれは躊躇なくそれを開いた。
「こんばんは、
丁寧な挨拶をしてみたが、扉の奥には誰もいなかった。
ただそこには歓楽街の店のバックヤードとは、あまりにも距離のある光景が広がっていた。
「なんだこりゃ?」
「……やっぱりそういうことですか」
おれの後ろからミナトが顔を出す。乱れた背広を整えて、最近のスカした態度を取り戻した口調と歩みでおれの前に出る。
「やっぱり、ってなんだよ」
「ここに居を構えた組織のことですよ。彼らの商品がこれです」
ミナトが踏み込んだ部屋の中央に置かれた黒い頑丈な長机の上に置かれたガラス容器を手に取った。容器の中には紫色の液体が入っている。
「なんだそりゃ。絵の具か?」
「そんなわけないでしょう。これを凝固して作るんですよ。クスリです」
もちろん、その答えはわかっていた。それも医療用の薬物という意味での「薬」はないことも理解している。バックヤードには、そうした化学薬品を精製するための設備と機器がところ狭しと並べられていた。
「あなたの退屈な余暇を楽しく過ごせるオクスリ、ってやつか」
「粗悪品ですよ。元はわたしたちの商品を薄めて売り捌いているんです」
「わたしたちの商品?」
「ええ。オヤジの。クスリもオヤジの商売のひとつですよ」
それは知らなかった。だがまあ、そういうものに手を出していても不思議ではないのがこのトーキョーという街であるし、その街にある総合商社というものだ。それよりも……
「ここはオヤジのシマの中なので、うちからの買い付けが楽なんですよ。それを低俗な方法で加工して薄く伸ばして売り捌くことで儲けを出そう、という、まあ、浅はかな考えですね」
「ふうん……なあ、ミナトよ」
「なんですか?」
「その、このクスリの顧客は誰なんだ?」
「末端はこの
「いや、そういうことじゃなくてよ」
おれはものすごく根本的なことが気になった。気にしてみれば、いままで考えたことがなかったことだ。
「『
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