第16話 おれたちは『強化』だ
瞳の赤い光を見た次の瞬間、おれの動かない左肩が熱を帯びた。錯覚か、と思ったが、その熱は急速に高まり、疑似痛覚が危険を知らせる感度をあっさり振り切る。反射的にミナトの胸ぐらを掴んだ手を放してしまった。
ほぼ同時に、おれの左肩が燃え上がる。比喩ではなく、本当に炎が上がり、おれは慌てて床に転がってその火を消そうした。それでも炎は消えない。それどころか、逆の腕も、脚も、身体の至るところが、同じく熱を帯び始め、おれは身をよじって転げ回った。
「そこまでにしねえか、ガキども!」
全身に宿った熱が突然消えた。燃え上がった左肩の炎すら消火された。聞き覚えのある野太い声と共に、見知った大柄が部屋の中に現れる。
「オヤジ、どうして!」
「てめえが頼りねえからだ、シミズ。それからな」
おれたちを『
と、そのままおれとミナトの間を通り過ぎていく。オヤジの足はその先、壁際で膝を抱えて震えている『取り立て』の対象だった若い男に向いていた。
「おれにでかい貸しを作ったやつの顔が最後に見たくなってなあ」
そう言いながら、オヤジは
「待て、待ってくれ、オヤジ、逃げない、おれは逃げないから、働くから」
それ以上男の言葉が続くことはなかった。一切の躊躇も間もなく男の頭部に
「一度逃げたやつの言葉を信じるほど、おれは人を信じちゃあいねえ」
回収しろ、というシミズの声が聴こえ、おれと一緒に『取り立て』に来た『強化』たちが部屋に入ってくる気配があった。しかし、おれにその姿を見ることはできなかった。オヤジがおれの胸ぐらを掴み上げて無理矢理立ち上がらせ、額がぶつかるほどの距離に顔を寄せていたからだ。
「てめえはなにやってやがる?」
オヤジからすれば、当然の問いだ。自分の手足として働かせるために金を賭けて『強化』したガキが二人、互いの機能を停止させんばかりの勢いで、本気で壊しあっていたのだ。
「おれたち『
気管機能を抑えられた喉から、どうにかおれの声が漏れだした。オヤジの問いに答える回答を、完璧に用意できているわけではなかった。おれ自身、これほどミナトとやり合う明確な理由も義理も関係性も、持ってはいないはずなのだ。それなのに、身体は動いた。グレイの言葉に添って。
「しぶとく、強く、生き抜く……そのためには、『非強化』同士で傷つけあうことなど、あっては……」
「おれたちは『強化』だ。もう」
答えたのは目の前のオヤジではなかった。オヤジの肩越しに血塗れで半壊してボロボロの顔をまっすぐおれを向けているミナトが見えた。
その通りだ。畜生。
「……シミズ、ミナトとイブキを
オヤジはそれ以上何も言わずに手を離した。おれの身体から力が抜けたのを感じ取ったのかもしれない。
結局、おれが必死になっていた理由そのものが、既におれの足元にはなかったのだ。『強化』になった、人間を辞めたおれには。
「わかりました、オヤ……」
オヤジの支えを失って、どうにか立っていたおれに、シミズが近づく。その言葉が不自然に途切れたので、顔を上げた。
シミズの頭が、吹き飛んでいた。
銃声は、遅れてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます