第10話 異変
「銃だよ、銃! なんかあるだろ!」
戦闘訓練は十分に積んできた。だからだろう。これほど激しい銃撃戦の中に生まれて初めて放り込まれても、別に慌てたりはしなかった。
だが、その狂乱に参加しようがなかった。武器がないのだ。
「てめえには『
サングラスの男が空になった弾倉を入れ替えながら言う。
そうか。確かに、そうだ。
おれは自分の両手を見た。
その手を大きく開き、胸の前で合わせる。
ぱぁん、と小気味いい音がして、その合わせられた掌が、手首が、腕が、見えなくなっていく。
『
「よし」
おれはその状態を確認して、廊下へ足を進める。が、一歩踏み出そうとして冷静になる。
「見えなくなっても、銃弾の嵐の中は進めねえだろ!」
おれはサングラスの男に文句をつけたが、その声は届いていない様子だった。『隠密』の効力発動中、声が電気的に欺瞞されているせいで、音として周りに届かないのだ。
「ちきしょう……」
便利なんだか不便なんだか。
おれは思い浮かんだ文句を胸の内に留めて、銃撃戦の行方を見守った。サングラスの男が弾倉を再装填する姿を見ながら思いついたのだ。
相手にも弾切れはある。
ならば、この姿が見えていないなら、チャンスはある。
音もなく忍び寄れるなら、いくらでも、どうとでもなる。
おれは銃弾のやり取りが下火になるタイミングを待った。そしてそれは、すぐに来た。
おれは廊下に飛び出して、全力で駆けた。『
おれは視界の中に信じられないものを見た。おれが向かう廊下の奥、銃撃戦の相手は、早くも三人が装填を終え、自動小銃らしき銃口をこちらに向けていたのだ。
間に合わない。
廊下の只中に『見えない』状態で存在するおれは、相手にその気がなくても、格好の的でしかない。
せめて壁際に寄って避ける、と考えた時には、銃火が薄暗い建物の廊下に瞬いていた。
おれは反射的に飛来する銃弾の群れに掌を晒す。
その瞬間だった。異変が起こったのは。
おれの掌に飛来する銃弾が空中で静止し、それ以外はおれの身体を貫く直前に、あらぬ方向へ飛んで弾けて、廊下の壁、床、天井に弾痕を残す。
明らかな動揺が、廊下に満ちた。だが、それは一瞬のことで、相手はすぐさま次の銃撃を始めている。
しかし、その銃撃にも同じことが起こる。おれの掌の前では静止する銃弾が増え、廊下には弾痕が増える。
ここに至って、襲撃者たちに広がった動揺の色が濃さを増す。慌てて弾倉を入れ替えるもの、呆然とその様子に目を向けるもの。誰もが銃撃戦どころではなくなっている。
ただ、動揺という点では、おれも同じだった。いま、この瞬間に何が起こっているのか、おれの目の前で起こりながら、おれにはまるで意味が分かっていなかった。
ただ……ふと、思いついたことはあった。
おれはそれを実行するため、晒した掌でその前で静止した銃弾を押すように動かした。
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