第6話 オヤジ

「お、オヤジ、どうしてここに!?」




 おれの下でワカガシラが『強化ブーステッド』らしくない、素っ頓狂な声を上げた。感情を映し出す半顔の歪みは、『非強化アンブーステッド』のガキに抱ていた恐怖とは異なる色に歪む。




 おれたちが座らさせられていた椅子の背後の扉が開き、『強化』犯罪組織の構成員たちがぞろぞろと入って来る。その中心に、明らかに他の『強化』とは雰囲気の異なる壮年に見える『強化』がいた。おそらくあれがオヤジと呼ばれた相手で、あの野太い声の主だ。




 声の低さ、太さに相応して体つきは大きく、それを肩の張った漆黒のスーツで包んでいるため、余計に大きく感じる。後ろへ撫で付けた白髪には艶があり、エラの張った四角い顔は老齢の皺こそあるものの、はっきりと張りがある。『強化』なので当然か、むしろわざと老いているように見せる理由があるのだろう、と考えてみて、全身から発せられる生気には確かに威厳や威圧に相当するものが感じられた。この気配はおれたちのように年端のいかないクソガキの外見では出せないものだ。




 ワカガシラがオヤジと呼んだことから察するに、この組織ではそれなりの地位にいることが想像できたが、おれにはそれがどれ程の人間なのかまではわからなかった。おれには『強化』の犯罪組織の序列に関する予備知識はない。ただ、複数の『強化』構成員を伴っている姿からも、オヤジが放つ威厳、威圧の力から考えても、かなり高い地位にいることはわかる。事実、おれはまるで関係ないはずなのに、このオヤジの存在感に圧倒されていた。




 だが、そうではないヤツもいた。




 ガキは、まるで違う感想を持ったのだろう。




 誰も、『強化』のワカガシラも構成員も、『非強化』であるおれも、次にガキが取った行動を先読みすることはできなかった。気がついた時には、ワカガシラにのし掛かって銃を突きつけたカギは文字通り飛び上がり、オヤジ目掛けて突進し、これも文字通り飛び掛かっていた。オヤジの大きな胸板に両膝を当て、銃を持っていない左手でオヤジの後頭部を抱え込むように固定すると、右手の銃口を、ワカガシラにしていたのと同じく、今度はオヤジの左目に突きつけた。弾丸が発射されなくても銃そのものが眼球を押し潰しそうなほどの距離にある。




「オヤジ!」




 幾人もの『強化』が遅れて声を上げ、各々に手にした武器をガキに向ける。中には強襲型アサルトタイプの『強化』もいたようで、腕の中に隠された『内装兵器インプラントウェポン』を起動し、手のひらから重火器の先端や鋭い刃物を向けるものもあった。それらはすべて、一撃で『非強化』の肉体なぞひき肉に変えられる武力であることは言うまでもない。ガキの死は逃れようのないものだった。そして、一蓮托生に見られているおれの死も。




「ガタガタ騒ぐな!」




 だが、『強化』たちがその刃を、引き金を引く前に、部屋全体を揺るがすほどの怒鳴り声が響いた。それは他でもなく、いま、ガキに取り付かれているオヤジの一喝だった。




「やかましいぞ、みっともねえ」




 オヤジにそう言われて、『強化』たちは誰もが所帯なさげに動きを止めている。その中心で、最も危険な状況にありながら、オヤジは怒りを露わにした後、向き合ったガキに楽しそうな笑みを見せた。




「なんてぇ目してやがる、この餓鬼がきは」




 思案するように顎を撫でたオヤジは、左目で銃口の闇を見ながらさらに笑みを深める。その姿には圧倒的な余裕がある。強者の余裕。『強化』の余裕……いや、そうか? これは……これは、なにか違う。これは……




「……あんた、『強化』じゃないな」

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