第2話 褒めて伸ばすカンパニー 契約編
朝の“褒め朝礼”が終わり、彼はコーヒー片手にゆっくりと自分のデスクに腰を下ろした。
この会社には、いわゆる「決まった業務」というものが存在しない。指示もマニュアルもほとんどなく、上司からの圧も皆無だ。だが、にもかかわらず——いや、むしろそのおかげなのか、業績は右肩上がり。もはや“右直角”と言っていいほどの角度で売上が毎月うなぎ上りなのだ。
では、なぜそんな奇跡のような現象が起きているのか?
理由は、たった一つ。
「田中がよくわからないけど契約を取ってきたぞ! 偉いな!」
「すごいぞ田中! 偉い!」
「契約取れるとか、まさに天才! 偉い!」
「田中って名字がもう偉い!」
「これで会社も安泰だ! 偉い!」
「いつもありがとう田中! 偉い!」
「晩飯奢るよ! 偉い!」
「この会社にはお前が必要不可欠だ! 偉い!」
オフィスに響き渡る、田中への賛辞の嵐。全社員が一致団結して田中を褒めちぎる様子は、まるでライブ会場のコールアンドレスポンスだ。
彼ももちろん、その輪に加わり、目を輝かせて声を張り上げる。
最高潮に達すると、田中は歓声の中、胴上げされる。しかも、毎回である。驚くほど安定したフォームで、天井ギリギリまで舞い上がる。
その後、「契約を取った人たちを褒める専門部隊」が登場する。
彼らは「褒め部隊の退社を褒める部隊」でもあり、「褒め部隊の褒めすぎによる喉の渇きを褒める部隊」でもある。
褒めた者が褒められ、その褒めを見た者もまた褒められ、やがて全員が何かしらで褒められる。
そう、これは“褒め合いの永久機関”。人類の夢、エネルギー革命がここにあった。
この無限ループが社員のモチベーションを支え、誰もが「今日は誰を褒めようか」と目を輝かせて出社する。
契約がどれほど難航しようとも、褒め合いによる勇気と連帯感で、全員が乗り越えてしまう。
この会社に必要なのは、ノルマでもKPIでもない。「偉い!」という一言なのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます