鹿の首、ほか6編
森永謹製
二階
これは怪談にしてはちょっと弱いかもしれない。というか怪談じゃないかもしれないんだけど、でも俺が今まで体験した中で一番ゾッとした話。
俺が育った地域っていうのが、まあ程よく田舎なところで。
栄えているところもあるんだけど、ちょっと行くと…住宅地の奥の方に行くと、畑とか空き地とかがあるんだな。
で、程よいっつっても田舎なわけだから。
ボロ家とかもあってね。人住んでんのか?ってところに、案外じいさんばあさんが住んでたりする。
それならまだいいんだけど、今度は…田舎だからさ、買い手がつかないみたいな空き家なんかも取り壊されずに残ってたりする。
よく通る道にもそういう家があってね。
二階建ての一軒家。見るからに古い家なんだよ、壁のペンキだって所々剥がれてて。
ずーっと空いててさ、誰も住まないもんだから冬になると雪積もりっぱなし。
で、俺が高二のころかな。四月から高三っていう時期。
それぞれの進路を前にして、パッとしなかった高校時代になんか思い出でも残そうって言い出したやつがいて。結構仲良かったやつね。
A助とでもしとこうか。
その言い出しっぺのA助と、俺と、もう1人…B太とかにしとこうかな…の3人で肝試しみたいなことでもしようかって。
どこ行く〜?って相談したの。自殺の名所、幽霊トンネル、墓場、だのなんだの出てたんだけど、まあ高校生だし行けるところ限られてくるよね。
で、結局さっき言ってた空き家に行くことにしたんだな。
俺は正直怖いの得意じゃないっていうのと、こういう、忍び込むとかいう法的にグレーというか、まあアウトでしょってこともしたくなかったからさ。
鍵かかってるんじゃないの〜?とか、不法侵入なんじゃないの〜?とかうだうだ言って、それとなくやめさせようとしたんだけど。A助がすっごく乗り気でさ。予定まで組んじゃって。準備とかもしとくわって。
なんだかんだ言ってる間に当日。
集合時間が夜中の十時とか。畑も近いもんだから真っ暗なの。
そんななか、例の空き家の前に俺たち三人が固まってるわけ。
A助が今回のルールを説明する。
「ポラロイド持ってきたから。ひとりずつ入って行って、おのおのが進んだところの写真を撮ってくる。」
「行く順番はじゃんけんで決める。最後に行く人は一番奥の写真を撮ってくる。」
「…じゃあ、やるぞ。じゃんけん…」
結果はA助が最初。B太が二番手。最悪なことに、俺がこの家の一番奥まで進まなきゃいけなかった。
まずA助が入って行った。
入って行って結構すぐの段階でドカドカ物音がして、「うおっ」って聞こえたから
外で待機してた俺らもヒヤッとしたんだけど、ちょっとしてからA助出てきて
「意外と散らかってて躓いたわ〜」
「空き家なのに散らかってんだ?」
「うん。ガラクタだらけでさ。ほら」
と、写真を出してみせる。確かに散らかっていて、ただフラッシュが届くぎりぎり遠くの方までは散らかっていないようだった。
それから、
「じゃ、行ってくるわ」
つってB太が二番目に行ったんだけど、ややしばらく戻ってこないのね。
これもまた、一番最後に控えてる俺からするとドキドキするわけで。
でもなんか、B太は何事もないふうに戻ってきてね
「遅かったね、何かあったの?」
「や、なんも。空き家にしては家財道具揃いすぎだなってかんじるくらいかな。」
「え、じゃあやっぱ人住んでるんじゃないの?」
「いや、電気のスイッチとか水道とかいじってみたけど通ってないっぽいよ」
「そんなことまでしてきたのかよ」
B太、もともとちょっと変なとこがあるというか、飄々としたやつだったんだけど、ここまでされると俺もA助も逆に面白くなってきちゃって。
最後の番俺だったんだけど、さっきまでと比べたらだいぶ楽になってね。
そこでB太が写真見せてきて
「こういうふうにしてあるから」
って。
見ると、廊下にゴミを一直線に並べてるのね。
「俺が進んだライン。お前はこっから先を見てきてくれ。」
つくづく余裕あるなって思いながら、そうかい、わかったわ、って言って
カメラ受け取って、俺も空き家に入って行ったわけ。
結構古い造りになってて。
入ってすぐ廊下が二又に別れてて…ちょうど、真ん中のお茶の間を取り囲むような形。
A助が言っていた通り、玄関周辺にゴミとかガラクタが散らばってて。
人住んでないもんだから、床からなにから埃がすごいのね。
で、玄関に靴箱あるんだけど、そこに手形がくっきりついてて。
ああこれA助がコケたときに手ぇ突いたんだなーとか思ったりして。
そのほかにもさ、床に靴跡もあって。
それもまあ、先に入った二人のやつだなって。
案の定、ちょっと進んだあたりで靴跡が一人分減ってんの。
で、さっきB太が言っていたとおり、ちょっと廊下を奥に進んだところにガラクタのラインがあって、そっから先には靴跡が見えない。
さっきはB太のおかげで怖くなくなったとはいえ、さすがに緊張してきて。
それまでずんずん進んでたのが、
今度は、そっと。
…そっと、
…一歩ずつ、
スマホの懐中電灯の灯りを頼りに歩いた。
なんだかんだ、廊下の突き当たりまで行ってさ。
そしたらそこに、二階に続く階段があって。
上がっちゃおうかな?なんて一瞬思ったんだけど、そこで気づいた。
俺より前に足跡がある。
それも、二階から降りてきて、また上がって行った、みたいな足跡。
俺、それ見て急に怖くなっちゃってさ。
写真撮って、逃げるみたいに家を出た。
俺が焦って出てきたから、A助もB太も茶化してきたんだけど、足跡がついた階段の写真見せたら黙っちゃって。
その日は三人で走って帰った。
その空き家は、俺たちが肝試しをした五年後くらいに取り壊しになった。
はじめに「怪談じゃないかもしれない」って言ったのはさ。
今でも思うからなんだよ。
あれ、本当に幽霊だったのかなって。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます