金魚ルチルの復讐
奈良まさや
第1話
第一章 小さな証人
港区の高級タワーマンション32階。夜景が宝石のように煌めく部屋で、佐伯美沙(29)は今日も小さな友達に語りかけていた。
「ルチル、今日もお疲れ様」
窓際の水槽で、金色に輝く金魚がゆったりと泳いでいる。美沙の声に反応するように、ルチルは水槽の前面に近づいてくる。その仕草はまるで、美沙の心を理解しているかのようだった。
「今日は部長にまた嫌味を言われちゃった。でも、あなたがいてくれるから頑張れる」
美沙は指先で水槽を軽く叩く。ルチルは小さな泡を出しながら、美沙の指を追いかけるように泳いだ。
この金魚の名前「ルチル」は、美沙が大学で学んだ鉱物学から取った。金紅石という美しい鉱物の名前で、金魚の輝く体色にぴったりだと思ったのだ。
一人暮らしの美沙にとって、ルチルは家族だった。毎朝の「おはよう」から夜の「お疲れ様」まで、二人の間には言葉を超えた深い絆があった。
しかし、その平和な日常は突然終わりを告げる。
第二章 消失
2024年11月15日、美沙は会社に現れなかった。
心配した同僚が連絡を取ろうとしたが、携帯電話は繋がらない。夜になって、マンションの管理人が部屋を確認したが、美沙の姿はなかった。
「特に争った形跡はありませんね」
翌日、刑事の田中が美沙の部屋を調べていた。部屋は整然としており、荒らされた様子もない。財布や貴重品もそのままだった。
「失踪じゃなくて、何か事件性があるかもしれません」
相棒の山田刑事がキッチンを調べていると、シンクに置かれたフライパンに目が留まった。
「これ、最近使った形跡がありますね。でも、綺麗に洗われている」
科学捜査班が調べても、決定的な証拠は見つからなかった。
そんな中、唯一の目撃者がいた。
水槽で泳ぐ金魚、ルチルである。
ルチルは激しく泳いでいた。まるで何かを訴えるように。もし魚が人間の言葉を話せたら、きっと真実を語っただろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます