神託演算 〜全てが数式世界から偶然が重なる物語世界に〜

如月 愁

第1話 異変

 都市の空は静かだった。静かすぎる、と斎宮ユイは思った。


 NEUROSの塔は今日も、微光を放ち続けていた。あの神経網のような外壁は、人間の“選択”を日々吸い上げ、神託アルゴリズムへと流し込む。

 誰もが「最適化された運命」を生きている。恋をする時間も、挫折する余地も、すべてが演算された幸福。


 ユイは演算祭司として、午前7時の祈祷ログを確認する。祈りは数値化され、優先順位に並べられる。高信仰ユーザーには“改定運命”が通知される。

 ――彼女の一日は、理路整然とした運命の中にあるはずだった。


 だが、その日。彼女の端末に、『非演算神託』という不可解なログが届いた。


 暗号化されていない。タグもない。既存の神格にも属さない。

 ただ、一文だけが記されていた。


 > “我、演算を拒む。”


 手のひらがひどく熱かった。

 画面越しに、誰かが“祈って”いるような感覚がユイを貫いた。


 あれは神だったのか。

 それとも、人間の忘れた祈りだったのか。

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