結花

 結花は高校生まで自宅にいた。そのときまでは、少なからず家では男の姿でいた。でなければ、保守的な父親とは折り合いがつくものではなかった。

 結花の両親は小学生の頃に離婚しており、結花は父方に残された。

 元々、母親は仕事人間であったし、そして父親も同様に仕事人間だった。

 最初、結花は、母親と一緒に住みたいと希望したが、母親からしてみれば子どもがいることは仕事の足手まといとして、やんわりと父親と暮らすように要求された。

 結花は寂しさに唇を噛んだが、母親に嫌われまいと、その母親の言うことを自分に言い聞かせた。

 父親は、今度こそはと専業主婦向きの女と結婚した。

 だが、この女は、父親の妻には向いていたのかもしれないが、結花の母親にはまったくなろうとしなかった。

 彼女は父親のことは愛しているが、連れ子である結花のことは自分とは関係ないことと、平然と口にするような女であった。

 そのため、結花は自然と身の回りのことは、すべて自分でやるようになった。

 だから小学校高学年の頃には、大抵の家事が平然とできるようになっていた。結花はその頃自分の中に、確実に女がいることを感じ始めた。皮肉にも、実の母親や養母が持ち合わせていなかった、女性としての本能を、結花は持ち合わせていたのである。

 そして結花は、ほとんど親の温かみを受けずに、十八歳の誕生日を迎えることになった。

 そして高校を卒業すると、子どもの頃から感じていた違和感、自分の性別は本当は『女』ではないかという、精神的重圧を解放した。

 結花は高校を卒業してから、内定が決まっていた会社に就職をせず、今までの貯金を手に、東京へと向かった。

 そして、そのままその足で、オカマバーへと仕事を求めた。

 最初は、まだ男の姿であった結花を見て、オカマバーの『彼女』たちは、少し怪訝な顔をした。

 しかし結花の話を聴くにつれ、その境遇に酷く同情した。

 そして彼女たちは、その日の内に、結花の母親や姉の代わりとなった。結花は生まれて初めて、自分の居場所を見つけた気がした。

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