第6話 『ブラウスの下の柔らかさ、遥の秘密』

 体育祭の興奮と疲労が少し落ち着いてきた五月下旬。西山和樹は、部活動の練習後、いつものように空き教室に向かっていた。最近は、咲良の友人たちだけでなく、他のクラスの女子からも個別にマッサージを頼まれることが増え、彼の放課後は以前にも増して忙しくなっていた。彼自身、誰かの役に立てること、そして女子たちの身体に触れることで得られる密かな興奮に、抗えない魅力を感じ始めていた。


 今日の依頼主は、小林遥だった。テニス部に所属する彼女は、明るいブラウンに染めたセミロングの髪を揺らしながら、和樹を空き教室で待っていた。遥は普段から笑顔が可愛らしい、明るい性格だが、その日の表情には、テニスによる疲労と、どこか期待のようなものが混じっていた。

 「和樹くん、ごめんね、いつも忙しいのに。でも、本当に腕がパンパンで……。昨日も練習試合だったから、もう全然力が入らないの」

 遥はそう言って、細い腕をさすった。和樹は彼女の前にしゃがみ込み、その腕にそっと触れた。

 「大丈夫だよ。テニスは特に腕を使うからな。どこが一番辛い?」

 「肩から肘にかけてかな。あと、手首も少し。バックハンドが苦手だから、変な力が入っちゃうのかも」

 和樹は遥の背後に回り込み、運動着のジャージの上から、まず彼女の肩に手を置いた。彼女の肩の筋肉は、見た目よりも張っていて、硬くなっているのが分かった。和樹は指の腹で肩甲骨の周りをゆっくりと揉みほぐし、そこから腕へと手を滑らせていく。遥の運動着は、淡い水色のTシャツと紺色のハーフパンツだ。Tシャツの薄い生地越しに、彼女の身体の温かさと、しなやかな筋肉の動きが和樹の掌に伝わってくる。

 「んん……そこ、効くぅ……」

 遥の口から、甘い吐息が漏れた。マッサージが進むにつれて、彼女の身体が微かに揺れ、和樹の指先に遥の心拍が伝わってくるように感じられた。和樹は、遥の明るいブラウンの髪から、甘いシャンプーの香りがすることに気づいた。それは、彼女の可愛らしい雰囲気にぴったりの、優しい香りだった。


 和樹が腕の筋肉を丁寧にほぐしていると、遥がもじもじとした様子で言った。

 「あのね、和樹くん……もっと、もっと楽になりたいんだけど……これ、脱いでもいいかな?」

 遥はそう言って、自分の着ている運動着のTシャツの裾に指をかけた。その言葉に、和樹は一瞬、息を呑んだ。まさか、そんな提案をされるとは。しかし、彼女の顔には、心からの疲労と、和樹への信頼が入り混じった、切実な表情が浮かんでいた。

 「……いいのか?」

 和樹が問いかけると、遥は小さく頷いた。

 「うん……和樹くんなら、大丈夫って思うから」

 その言葉は、和樹に対する深い信頼を物語っていた。和樹はゴクリと唾を飲み込み、緊張しながらも頷いた。

 「わかった。無理はしなくていいからな」

 遥はゆっくりとTシャツを脱ぎ始めた。するりと頭を抜けると、ふわりとシャンプーの香りが一層強く立ち上る。そして、露出した遥の上半身に、和樹の視線は釘付けになった。

 そこには、淡いラベンダー色のブラジャーに包まれた、遥の瑞々しいバストがあった。Bカップと聞いていたが、彼女の細身の体型には十分な丸みを持っていて、和樹の想像よりもずっと豊かに見えた。シンプルながらも、カップの縁には控えめなレースがあしらわれ、それが肌の色と相まって、より一層繊細な印象を与えている。ブラジャーのストラップは、白くなめらかな肩に食い込むことなくフィットし、彼女の女性らしい身体のラインを強調していた。

 「は、はるか……」

 和樹は思わず、遥の身体に見入ってしまった。彼女の肌は、汗ひとつかいていないようで、きめ細かく、ほんのりと温かみが感じられた。


 「じゃあ、続き、お願い」

 遥は少し恥ずかしそうにしながらも、和樹に背中を向けた。

 和樹は深呼吸をし、緊張した手つきで、直接遥の肌に触れるマッサージを再開した。肩甲骨の縁、背骨の両脇を親指の腹でゆっくりと辿ると、遥の身体が小さく震えた。

 「ひゃっ……ちょっと、くすぐったいかも……でも、気持ちいい」

 和樹の指先は、滑らかな肌の感触と、その下にある柔らかい筋肉の動きを鮮明に捉えた。ブラジャーのサイドベルトが肌に当たる感触、カップの下縁から続くバストの重み。和樹は、彼女の背中を撫で下ろすたびに、ブラジャーの生地の薄さや、その下の肌の温もり、そして僅かな凹凸までもが指先に伝わってくるのを意識した。彼の指が遥の背中を滑るたびに、彼女の吐息が甘く、深く、教室に響いた。

 「痛くないか?力加減、大丈夫?」

 和樹は声を震わせながら尋ねた。

 「うん……大丈夫。和樹くんの手、すごく優しいね。こんなに気持ちいいんだって、初めて知った」

 遥の声には、心地よさからくる安堵と、和樹への確かな信頼がにじんでいた。和樹は、彼女の細い腰から背中を優しく撫で上げると、遥の身体が震え、うっとりとした表情で天井を見上げた。その頬は、ほんのりピンク色に染まっていた。

 「遥はテニスで全身使うから、腰とか背中も凝るんだな。特にここ、硬くなってる」

 和樹は会話を続けることで、高鳴る鼓動を抑えようとした。遥は彼の言葉に頷きながら、ふいに尋ねた。

 「ねえ、和樹くんって、咲良のこと、本当に好きなの?」

 予期せぬ質問に、和樹の手がぴたりと止まった。遥は和樹の表情を伺うように、そっと首を傾げる。

 「う、うん……まあ、そうだな」

 和樹は曖昧に答えた。遥はそんな和樹の様子に、何かを察したようだった。

 「そっか……咲良って、和樹くんに冷たいけど、和樹くんのこと、すごく頼りにしてるよね。見ててわかるよ」

 遥の言葉に、和樹は少しだけ安堵した。少なくとも、自分の片思いは、彼女には伝わっている。そして、咲良が自分を頼りにしているという言葉は、和樹にとって何よりの喜びだった。


 マッサージが終わり、遥はゆっくりとTシャツを着直した。

 「和樹くん、本当にありがとう。すごく楽になった。明日からの練習、頑張れそう」

 遥の笑顔は、来る前よりもずっと晴れやかで、その瞳は和樹に向けられた。その目には、感謝と、そして何か新しい感情が宿っているように見えた。

 「どういたしまして。また辛くなったら、いつでも言ってくれ」

 和樹は、遥との1対1のマッサージが、これまでのグループでのマッサージとは全く違う、特別な体験になったことを実感していた。彼女の肌に直接触れた感触、ブラジャー姿で向かい合ってくれたこと、そして咲良への想いを共有してくれたこと。それは、和樹の心の中に、新たな領域への扉が開かれたような、甘い予感を残していった。



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