第2話 『初めての触れ合い、制服の向こう側』

 新学期が始まって数日。和樹は昼休みの教室で、いつものように咲良とその友人たちの賑やかな会話を聞き流しながら、静かに読書に耽っていた。昨日の「マッサージ」の提案は、果たして冗談だったのか、それとも本気だったのか。和樹の胸の内では、小さな期待と、もし本気だったらという漠然とした不安が交錯していた。


 放課後、バレー部の練習を終え、汗を拭きながら部室を出ようとした時だった。背後から、呼びかける声がした。

 「和樹!」

 振り返ると、そこにいたのは月島咲良だった。彼女は書道部の道具を片付けた帰りなのか、制服姿のままだ。その横には、佐々木梓、高橋梨花、小林遥、山本結衣、伊藤楓といった、咲良の友人たちが全員揃っていた。

 「どうしたの、みんな揃って?」

 和樹が問うと、咲良が少し得意げな顔で言った。

 「昨日言ったでしょ?マッサージ、してもらいに来たのよ。ちょうどいいから、空いてる教室でやろうよ」

 やはり本気だったのか。和樹の心臓が小さく跳ねた。内心の動揺を悟られないよう、和樹は努めて平静を装った。

 「ああ、いいけど。どこが辛いんだ?」

 空き教室に着くと、女子たちは教室の隅に寄せられた机と椅子を避け、床に座り込んだ。制服のスカートが床に広がり、和樹は視線をどこに置けばいいか迷った。

 「私は肩と首かな」と、まず口を開いたのは佐々木梓だった。彼女は知的で落ち着いた雰囲気だが、書道部の活動で常に姿勢を保っているため、肩や首の凝りは慢性的なものだと聞いたことがある。

 「私も!部活で腕とか足とか全身だるいし!」と高橋梨花が続いた。彼女はバレー部で、和樹と同じように全身を酷使しているのだろう。

 「私はテニスで腕がパンパンなの」と小林遥。

 「バスケで肩と腰が…」と山本結衣。

 「陸上はとにかく全身に来るからね!」と伊藤楓も加わり、皆が口々に体の不調を訴えた。

 咲良はにこやかに皆の様子を見ていたが、自分から積極的にマッサージを求めることはなかった。彼女は、和樹の様子を観察しているようだった。


 和樹は、まず最も訴えの多かった肩と首から始めることにした。

 「じゃあ、順番に。まずは肩から軽く揉んでいくよ。強すぎたら言ってくれ」

 最初に和樹の前に座ったのは、一番症状を訴えていた山本結衣だった。彼女はバスケット部で、普段から活発に動いている。黒髪のショートボブが制服の襟元に軽く触れる。

 和樹は結衣の背後に回り、制服のブレザーの上から、そっと彼女の肩に手を置いた。柔らかな布地の向こうに、引き締まった筋肉の感触が伝わってくる。指の腹でゆっくりと円を描くように肩の筋肉をほぐしていくと、結衣の身体が微かに揺れ、息を小さく漏らした。

 「んっ……気持ちいい……」

 その声は、和樹の予想以上に甘く、彼の指先に伝わる結衣の身体の熱がじんわりと増していくのが分かった。和樹は、ブレザーとブラウスの隙間から、結衣のブラジャーのストラップのラインがかすかに見えるのを意識した。それは、彼女の身体に吸い付くようにフィットしており、和樹の想像力を掻き立てた。

 「ここ、すごく凝ってるね。バスケ大変なんだな」

 和樹が話しかけると、結衣は「うん……いつもガチガチになっちゃうんだ」と、少し甘えたような声で答えた。和樹は、彼女の普段の活発な印象とのギャップに、胸の奥がくすぐられるような感覚を覚えた。

 次に高橋梨花。彼女もバレー部で、和樹と同じく筋肉質だ。制服のブレザー越しでも、その肩のしっかりとした筋肉の張りが感じられる。和樹が揉み始めると、「うわ、そこ!効くー!」と率直な声が上がった。梨花はショートカットの髪から微かに汗の匂いを漂わせ、和樹はそれが運動後の清々しい匂いだと感じた。


 数人のマッサージを終え、次に佐々木梓が和樹の前に座った。

 「和樹、お願いね。私、普段から姿勢が悪いから、首も肩もガチガチなの」

 梓は丁寧な言葉遣いだが、その声には疲労の色が滲んでいた。和樹は彼女の細い首筋に手を伸ばし、ゆっくりと指圧を加えていく。彼女の髪は肩にかかるミディアムボブで、ほんのりと甘いシャンプーの香りがした。

 「うん、すごく凝ってるね。特にこのあたりが硬い」

 和樹が首の付け根を丁寧に揉みほぐすと、梓の呼吸が深くなり、体がわずかに前のめりになった。

 「はぁ……気持ちいい。本当に楽になる。和樹って、マッサージ上手なんだね」

 梓の声には、心地よさからくる安堵がにじんでいた。和樹は彼女の言葉に内心で喜びを感じつつ、梓の制服のブラウスのわずかなシワから、中に着ている白くシンプルなブラジャーのカップの丸みが微かに浮かび上がっているのを意識した。彼女の落ち着いた雰囲気と、その下の繊細なインナーウェアのコントラストが、和樹の視線を引きつけた。

 「高校1年の時に部活で肩を痛めてから、自分で色々調べてたんだ。ストレッチとか、マッサージとか」

 「そうなんだ……ありがとう。和樹のおかげで、少し勉強に集中できそう」

 梓はそう言って、和樹に感謝の笑顔を向けた。その笑顔は、どこか遠慮がちだったが、和樹の手技によって彼女の心が少しずつ開かれているように感じられた。


 和樹がマッサージを続ける間、女子たちは受験勉強の進捗や、部活動の悩みについて口々に話していた。

 「模試の結果、全然上がらなくてさ、マジで焦るんだけど」と遥。

 「わかるー。部活で疲れて帰ってきても、そこからまた勉強って考えると、気が重いよね」と梨花。

 和樹は彼女たちの話に耳を傾け、時折「無理しすぎない方がいいよ」「気分転換も大事だぞ」と優しい言葉をかけた。彼のきめ細やかな気遣いが、女子たちの安心感を誘っているのが分かった。

 咲良は、そんな和樹の様子を少し離れた場所から、満足そうに眺めていた。彼女の表情は、まるで自分の予想通りになったことを喜ぶかのような、微かな笑みを浮かべていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る