11年後の今日、この場所で。
さかなとごりら
11年後の今日、この場所で。
あれはまだ、僕たちが小学6年生だった頃。
みんなで山奥の小屋に集まって、
「ここが俺たちの秘密基地だ」って、
馬鹿みたいにはしゃいでた。
その時はまだ、大人になるだとか、この先の未来だとか何にも考えずにただただ遊んでた。
その頃の僕たちはもうスーパー戦隊や仮面ライダー、プリキュアなんかになれるわけない。
そんなのテレビの中だけで現実ではなれるはずがないってわかってた。
でも、大学を卒業して、普通にサラリーマンになって、お嫁さんと子供二人と幸せな家庭を作る。
それは何にも難しいことではなくって、ただ人生を過ごしていればいずれはそうなるものだって思ってた。
本当の現実は、就活に失敗して大学は卒業をできたけれど職はなくただのコンビニバイトだ。
コンビニのバイトは何度もしているが、数ヶ月で店を転々としてる。
僕は愛想が悪く客からも同じバイト仲間からも嫌われる。
毎日入れるからと、どこも採用してくれるが、1、2ヶ月も経てば店長からも疎まれてしまう。
直接言われたことはないが、きっとみんな僕に対してそう思っている。
そんなところでは、僕は働いていけない。
そうして、僕はコンビニバイトを転々としていた。
コンビニにこだわる理由は自分でもわからない。
ただ、働かないと生きてはいけない。
また新しいバイト先を探さないと。
今日は7月6日七夕の1日前だ。
僕たちは11年前の七夕の日、天の川を見るために秘密基地に集まって、みんなで星を眺めていた。
「大学を卒業して、大人になった11年後の今日、この場所でここでもう一度みんなで会おう」
明日がその約束の日だ。
あの時のみんなともう一度会えるかもそう思うと心が少し救われる。
久しぶりに会うみんなのことを思いながら、僕は眠りについた。
目が覚めたのは11時過ぎ。
起きるのは少し遅いが集まる時間は決めてないし、天の川が見える夜にまでに着けばいいだろう。
外は雲ひとつない青空で今までの僕の心もくもりも晴れた気がした。
今、僕が住んでいる場所から秘密基地のところまでは一時間程離れている。
5時に家を出ることにして、ゆっくり準備をすることにした。
山に入るから動きやすい格好にして、荷物はあんまり多くなりすぎないように。
今日はいつも以上に時計を気にしながら生活をしている。
時間を時間を潰せるように頑張ったが、4時半に家を出た。
夕方になっても雲はなく秘密基地のある場所からだときっと綺麗に見えるだろう。
電車に揺られ、途中、あまり飲まないビールをどれだけ必要かわからないからとりあえず6本買って、秘密基地に向かう。
秘密基地のある山は雑草が伸びており、膝より少し高い草が生い茂っていた。
道なき道を記憶を頼りに歩いているとすぐに秘密基地は見えた。
子供の頃でも、そんなに時間がかかった記憶はないので大人になった今は小屋まで行くのに時間はかからなかった。
秘密基地はあの時のままで、子供の時は何も感じなかった扉を潜ることが今では、少し頭を下げないと上のところに当たってしまいそうだ。
先についた僕は、さっき買ったビールを飲み始めた。
外はだんだん暗くなっていって空を見上げると綺麗な天の川が見えていた。
この秘密基地から見える天の川は家や街中で見るよりも心を奪われるほどに綺麗だった。
ただ、一つ。
僕はわかっていた。
だけど、わからないふりをしていた。
あの頃のみんなは来ないってことだ。
11年も昔の話。
子供の頃の記憶なんて覚えてる方が珍しい。
それに、みんなにはそれぞれの未来があって、今はそっちの方が大切なんだろう。
頬に流れる涙がもしも星だったら、僕は何を願えばいいのだろうか。
一人星を眺めながらビールの味を僕は一生忘れないだろう。
いつか誰かと机と料理を囲ってお酒を飲んでる時、笑い話にできるのだろうか。
綺麗な星を眺め、あるかもわからない未来を思う。
その時の僕は、登録されていない電話番号からの
「久しぶり!元気してる?明日、あの頃のみんなで…」
というメッセージに気づいていなかった。
11年後の今日、この場所で。 さかなとごりら @ARKit
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