第3話:謎の新任教師という設定

「失礼しました。新任の先生でしたか」


いや……違うんですけど……。


「どうりで。高校生にしてはちょっと……大人っぽいなって思ってたんですよ」


いま、何が飲み込んだよね?

そりゃ高校生で通用するような年齢じゃないけどさ。


朝霧先生の言葉に私は内心でツッコミを入れつつ、表面上は愛想笑いを浮かべていた。


「しかし、校長、どうしましょう? 彼女、捻挫してしまったようで、今日は歩けないみたいなんですよ」


年配の男性はこの学校の校長先生のようだ。朝霧先生は気を利かせてくれたのか、校長先生に私のことを説明してくれている。


「そうですか……。困ったなあ……」


校長先生は朝霧先生の言葉を聞き、腕を組んで考えている。


「初日から欠勤というのもナンですが、今日はお休みということで、明日からにしてみてはいかがでしょう。今日病院に行けば、松葉杖借りれるでしょうし」


朝霧先生の言葉に校長先生は頷くしかなかった。


「そうですね。仕方ありません。今日は休んでいいですよ。えーっと……」


校長先生は私を見つめて言う。どうやら名前がわからないようだ。


どうしよう? こんなよくわからない世界で、本名を名乗るべきだろうか?

ワンチャン、記憶喪失ってことにすれば、教師はやらなくて済むか?


「あ、えっと……」


私が言葉に詰まっていると、校長先生はスーツの内ポケットから紙を取り出して言った。


「そうそう。藤野先生」


え? 何で私の名前知ってるの?


「藤野先生……とおっしゃるんですか? この方は」


朝霧先生が確認するように校長先生に尋ねる。


「そうですよ。藤野……ヒナタ先生。……ですよね?」


校長先生は確認するように私を見る。


「……はい。……そうです……」


そう答えるしかなかった。藤野ヒナタ。それは、まさしく私の本名だ。しかし、私がなぜこの学校の「新任教師」として認識されているのか、全く理解できない。頭の中は疑問符でいっぱいだった。


「あの……ちなみに。私は……何の教師でしたっけ?」


我ながら酷い質問だと思う。場の空気が一気に凍りついたのがわかる。


でも……、だって、身に覚えもないのに「教師」ってことになってるんだもん。

教師なんてできるわけないじゃん。そうでなくてもミス多いのに……。


校長先生は困惑した様子で朝霧先生に尋ねる。


「……藤野先生は何かあったのですか?」


朝霧先生は少し考え込んだように言う。


「……もしかしたら……記憶喪失……なのかもしれませんね……」


「記憶喪失!?」


校長先生の驚いた声が保健室に響き渡る。その視線が、困惑と心配がないまぜになって私に突き刺さった。

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