筋肉モブ貴族、最強ラスボス公爵令嬢に溺愛されて世界を救う!?〜悪女の真実と、俺の理想のスローライフはどこいった?〜
境界セン
1章
第1話
「おい、マジかよ……」
思わず、口から漏れたのはそんな呟きだった。
目の前に立つのは、煌びやかなドレスを纏った一人の女性。透き通るような白い肌に、夜空を閉じ込めたような深い青の瞳。誰もが息を呑むほどの美しさ。だが、その顔はゲームの記憶と重なる。
「まさか、レイラ・フィ・アゼルリア公爵令嬢、ご本人様が俺なんぞに……?」
声が震える。喉がカラカラだ。
「ええ、そうですわ。わたくし、あなた様との婚約を望んでおりますの」
微笑む彼女の姿は、ゲームで見た『史上最悪の悪女』とは似ても似つかない。むしろ、聖女と謳われた頃の彼女を彷彿とさせる。
「いや、でも、俺はただの伯爵家三男坊でして……。それに、公爵令嬢殿下には、もっと相応しい方がいらっしゃるかと」
必死に言葉を紡ぐ。脳裏には、ゲームのシナリオが駆け巡る。気に入らない者は次々と毒殺。婚約者も例外ではない。俺、このままじゃ死ぬんじゃね?
「あら、ご謙遜を。あなたのその強靭な肉体、そして何より、その飾らないお人柄に、わたくしは惹かれましたのよ」
にこやかに、だが有無を言わせぬ口調で言われる。肉体って、まさか俺が日課にしている筋トレのことか? 確かにこの世界に来てからも欠かさなかったが。
「しかし、俺は……」
「ご安心ください。わたくしは、決してあなた様を害するようなことはいたしませんわ」
その言葉に、少しだけ安堵する。だが、ゲームの記憶が邪魔をする。彼女が『悪女』となった背景には、何か理由があるはずだ。
「あの、差し出がましいようですが、公爵令嬢殿下は、なぜそこまでわたくしのような者に……?」
意を決して尋ねる。
「それは……。ふふ、いずれお話しいたしましょう。今はまだ、秘密ですわ」
意味深な笑みを浮かべるレイラ。その瞳の奥には、深い悲しみが宿っているように見えた。
その日、俺の気ままなモブ貴族ライフは、終わりを告げた。公爵令嬢レイラとの婚約。それは、この世界の運命を大きく揺るがす、始まりに過ぎなかったのだ。
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「で、どうすんだよ、レオン?」
翌日、自室で頭を抱える俺に、親友のゼノスが呆れたように言った。
「どうするって言われてもな……。断れる雰囲気じゃなかったんだよ、あれは」
「そりゃ、公爵令嬢様が直々に来られたら、そうだろうな。でも、お前、あのレイラ様だぞ? 『血塗られた聖女』って呼ばれてるんだぞ?」
ゼノスの言葉に、再び胃がキリキリと痛む。そう、彼女はかつて聖女として尊敬を集めていたが、ある事件を境に『悪女』へと変貌した。その事件とは、婚約者の毒殺未遂。表向きは未遂だが、ゲームでは確実に殺していた。
「分かってるよ。だから、俺も困ってるんだ」
「困ってるって顔じゃないな。むしろ、少し浮かれてるように見えるぞ?」
ゼノスの鋭い指摘に、思わず顔を背ける。確かに、少しだけ期待している自分がいるのも事実だ。ゲームでは語られなかった彼女の真実。それを知ることができるかもしれない。
「まさか。俺はただ、生き残りたいだけだ」
「へえ? それにしては、妙に目が輝いてるぜ?」
からかうようなゼノスの声に、ため息をつく。
「それで、レオン。これからどうするんだ? 公爵家に入るのか?」
「ああ。来週には、公爵家へ挨拶に行くことになってる」
「マジかよ。お前、死ぬなよ?」
「縁起でもないこと言うな。俺は筋肉で生き残る!」
そう言って、腕の筋肉を誇示する。ゼノスは呆れたように首を振った。
「まあ、お前なら何とかするだろうな。でも、もしもの時は、俺が弔ってやるから安心しろ」
「おい!」
軽口を叩き合う。俺たちの間には、確かな友情があった。
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