『俺達のグレートなキャンプ63 キャンプ場に(小麦粉で)ナスカの地上絵を描こう!』

海山純平

第63話 キャンプ場に(小麦粉で)ナスカの地上絵を描こう!

俺達のグレートなキャンプ63 キャンプ場に(小麦粉で)ナスカの地上絵を描こう!


朝もやが立ち込める『みどりの森キャンプ場』に、石川の高らかな声が響いた。

「富山!千葉!今日もグレートなキャンプの始まりだぞ!」

石川は両手を天に突き上げ、まるで神に感謝を捧げるかのようなポーズを決める。朝日が彼の後頭部を照らし、妙に神々しい雰囲気を醸し出していた。

「石川、今日はまた何を企んでるの?」富山は眉間にしわを寄せながら、既に嫌な予感に包まれていた。長年の経験が告げている。この男のテンションが異常に高い時は、必ず何かやらかすのだ。

「おお!今日は特別にグレートだぞ!」石川は大きなリュックサックをドサッと地面に置くと、中から白い巨大な袋を取り出した。「じゃーん!小麦粉10キロ!」

千葉の目がキラキラと輝く。「小麦粉?パンでも作るの?それともうどん?」

「違う違う!」石川は両手をブンブンと振り回す。「今日はなんと!キャンプ場に小麦粉でナスカの地上絵を描くのだ!」

「「えええええええ???」」富山と千葉の驚愕の声が、キャンプ場の静寂を破って響いた。近くでコーヒーを飲んでいた他のキャンパーが、こちらを振り返る。

「ちょっと待って石川!」富山は慌てて石川の肩を掴む。手が震えている。「ナスカの地上絵って、あのペルーの古代遺跡の?」

「そうだ!」石川の目は既に狂気じみて光っている。「あの神秘的なナスカの地上絵を、このキャンプ場で再現するのだ!考えただけでグレートじゃないか!」

富山は頭を抱えた。「無理でしょ!第一、芝生を汚したら怒られるよ!」

「大丈夫大丈夫!」石川は既に小麦粉の袋を破り始めている。「小麦粉なら雨が降れば流れるし、鳥のエサにもなる!一石二鳥だ!」

千葉の瞳が更に輝く。「すごく面白そう!どんなキャンプも一緒にやれば楽しくなるもんね!」

「千葉まで…」富山は絶望的な表情を浮かべた。

石川は地面に座り込み、スマートフォンを取り出す。「えーっと、ハチドリが有名だな。いや、コンドルも捨てがたい。あ、猿もいいぞ!」

「本当にやるの?」富山の声は既に諦めのトーンに変わっている。

「もちろんだ!」石川は立ち上がると、キャンプ場を見渡す。「せっかくこんなに広いキャンプ場なんだから、芸術作品を作らなければもったいない!」

「でも小麦粉10キロで足りるかな?」千葉が心配そうに袋を覗き込む。

「とりあえずハチドリから始めよう!」石川は木の枝を拾い上げると、地面に大雑把な設計図を描き始める。「長さは…50メートルくらいでどうだ?」

「50メートル?!」富山の声が完全に裏返った。

その時、隣のサイトでテントを張っていた家族連れのお父さんが、恐る恐る近づいてきた。「あの、すみません…何をされているんですか?」

「おお!」石川は振り返ると、満面の笑みを浮かべる。「ナスカの地上絵を小麦粉で描いているのです!古代の神秘をこのキャンプ場で再現するのです!」

お父さんは困惑した表情を浮かべ、首をかしげる。「それって…大丈夫なんですか?」

「もちろん!」石川は胸を張る。「小麦粉だから環境に優しいんですよ!」

その時、キャンプ場の管理人のおじさんが小走りでやってきた。「君たち、何をしているんだ?」

「管理人さん!」石川は管理人に向かって大きく手を振る。「実は素晴らしいアート作品を作ろうと思いまして!」

「アート?」管理人のおじさんは眉をひそめる。

「ナスカの地上絵です!小麦粉で描くので、雨が降れば自然に消えます!」

管理人のおじさんは暫く考え込んでいたが、やがて苦笑いを浮かべた。「まあ、小麦粉なら害はないし…でも、他のお客さんに迷惑をかけないでくださいよ」

「やった!」石川と千葉がハイタッチする。

「というわけで、作業開始だ!」石川は指揮官のように腕を振り上げる。「まずは下書きから!千葉、君はハチドリの胴体担当!富山は翼担当!」

「私まで巻き込まれるの?」富山はため息をつきながらも、仕方なく小麦粉の袋を持ち上げる。

作業が始まると、その重労働ぶりが明らかになった。

「うわあああ!重い!」千葉は小麦粉の袋を引きずりながら、汗だくになっている。

「これ、思ったより大変だね!」富山も額に汗を浮かべながら、小麦粉を少しずつ撒いている。

「そうだ!」石川は突然手を叩く。「ドローン!俺のドローンで上から確認しよう!」

石川はリュックから小型のドローンを取り出す。「これで全体像がバッチリ見えるぞ!」

「おお!ハイテク!」千葉は目を輝かせる。

ドローンがブーンという音を立てて空に舞い上がる。石川はコントローラーを操作しながら、スマートフォンの画面を見つめる。

「どう?ちゃんとハチドリに見える?」富山が汗を拭きながら尋ねる。

「うーん…」石川は首をかしげる。「なんか、ミミズみたいに見えるな」

「ミミズ?!」千葉が驚く。

「もっと小麦粉を厚く撒かないと、線がはっきりしないみたいだ」石川はドローンを着陸させる。

「ということは…」富山が青ざめる。

「そう!小麦粉を倍量使うぞ!」

「え?でも10キロしかないよ?」千葉が心配そうに言う。

「大丈夫!」石川は胸を張る。「途中でコンビニに買いに行けばいい!」

こうして、更なる重労働が始まった。三人は汗だくになりながら、小麦粉を撒き続ける。

「はあはあ…これ、筋トレより辛いよ」千葉がヘロヘロになっている。

「もう…腰が…」富山は腰を押さえながら、よろよろと歩いている。

しかし、重労働の疲労と共に、なぜか三人のテンションは異常に高くなっていた。

「うおおおお!俺たちは現代のナスカ人だあああ!」石川は小麦粉を撒きながら雄叫びを上げる。

「古代の神秘を解き明かすのだあああ!」千葉も興奮状態で小麦粉を撒き散らす。

「もう、どうにでもなれー!」富山も開き直ったように、豪快に小麦粉を撒いている。

その時、若いカップルが近づいてきた。

「すみません、何をされているんですか?」女性が興味深そうに尋ねる。

「ナスカの地上絵です!」石川は汗だくの顔で振り返る。「一緒にやりませんか?」

「面白そう!」男性が目を輝かせる。「僕たち、アート好きなんです!」

「仲間が増えた!」千葉が飛び跳ねる。

こうして、作業チームは5人に増えた。しかし、人数が増えたことで、予期せぬアクシデントが発生する。

「あ、ちょっと待って!」富山が慌てて声を上げる。「そっちじゃない!翼が逆向きになってる!」

「え?」カップルの男性が困惑する。

「いや、これで合ってるよ!」石川が反対する。

「どっちが正しいの?」千葉がパニックになっている。

混乱の中、ドローンを再び飛ばしてみると、上空からは奇妙な形の物体が見えた。

「これ…何に見える?」石川がスマートフォンの画面を見つめる。

「うーん…」みんなが首をかしげる。

「宇宙人?」カップルの女性が呟く。

「いや、タコ?」千葉が言う。

「もしかして…UFO?」富山が恐る恐る言う。

「よし!それだ!」石川は急に興奮する。「UFOのミステリーサークル風地上絵に変更だ!」

「えええ?」みんなが驚く。

「だって、もうハチドリには見えないし、これはこれでグレートじゃないか!」

こうして、当初の計画は完全に変更され、謎の図形が完成した。

その時、キャンプ場の入口に観光バスが到着した。

「あ、今日は外国人観光客の団体が来る予定だった」管理人のおじさんが慌てている。

バスから降りてきたのは、欧米系の観光客たち約30名。

「Oh my God! What is this?」

「It looks like crop circles!」

「Incredible! Real mystery circles in Japan!」

外国人観光客たちは大興奮で、スマートフォンで写真を撮りまくっている。

「え?クロップサークル?」石川が困惑する。

カップルの女性が通訳する。「ミステリーサークルみたいだって言ってます!」

「Alien! Alien!」観光客の一人が興奮して叫ぶ。

「宇宙人?」千葉が目を丸くする。

「We want to take pictures with you!」

「一緒に写真を撮りたいって言ってます!」

こうして、国際的な記念撮影大会が始まった。観光客たちは、石川たちを「ミステリーサークルの発見者」として扱い、次々と写真を撮っていく。

「This is amazing discovery!」

「I will post this on social media!」

「My friends will not believe this!」

興奮した観光客たちは、SNSに写真を投稿し始める。石川たちは何が起こっているのか分からないまま、観光客に囲まれている。

「なんか、すごいことになってない?」千葉が呟く。

「でも、みんな楽しそうだからいいんじゃない?」富山も笑顔になっている。

「これぞグレートなキャンプの真骨頂だ!」石川は得意満面だ。

観光客たちが帰った後、管理人のおじさんがやってきた。

「君たち、外国のお客さんがとても喜んでくれたよ。こんなに盛り上がったのは初めてだ」

「よかったです!」石川は胸を張る。

「でも、あの人たち、本当にミステリーサークルだと思ってたみたいだけど…」富山が心配そうに言う。

「まあ、楽しんでくれたからいいじゃないか!」石川は気にしていない。

翌朝、三人がテントから出ると、予想通り夜中の雨で小麦粉は綺麗に流れていた。

「あ、消えてる」千葉が空を見上げる。

「でも、昨日の写真は残ってるからな」石川がスマートフォンを確認する。

その時、富山のスマートフォンに通知が入った。

「あ、海外のニュースサイトから通知が…」富山がスマートフォンを見る。

「なんて書いてある?」石川が覗き込む。

「えーっと…『日本のキャンプ場で発見された謎のミステリーサークル』…って書いてある」

「えええ?」千葉が驚く。

「『UFO研究家が調査を開始』…『宇宙人からのメッセージの可能性』…」富山の声が震えている。

「おおお!」石川が興奮する。「俺たちの作品が世界的なニュースになったぞ!」

「でも、これってヤバくない?」千葉が青ざめる。

「大丈夫大丈夫!」石川は全く気にしていない。「どうせ雨で消えたし、真相は闇の中だ!」

「真相って…私たちが作ったんじゃない」富山がツッコむ。

「細かいことは気にするな!」石川は満足そうに空を見上げる。「これぞグレートなキャンプの成果だ!」

その後、海外のオカルト系サイトやUFO研究サイトで、「日本の謎のミステリーサークル」として大きく取り上げられることになった。専門家による分析記事まで書かれ、「東洋の神秘的な現象」として世界中で話題になった。

しかし、石川たちは真相を知る者として、ただ苦笑いを浮かべるばかりだった。

「次回は何を作ろうか?」石川が呟く。

「もう、何でもいいよ」富山は諦めモードだ。

「でも、今度は最初から宇宙人テーマでやろうよ!」千葉が提案する。

「それだ!次回は『宇宙人の遺跡を再現キャンプ』だ!」

「また始まった…」富山は頭を抱えた。

車で家路につく途中、ラジオから流れてきたニュースに三人は耳を澄ませた。

「続いてのニュースです。日本のキャンプ場で発見された謎の図形について、NASA(米航空宇宙局)が関心を示していることが分かりました…」

「NASA?!」三人は同時に叫んだ。

「俺たちの小麦粉アートがNASAにまで届いたのか…」石川が呟く。

「これって、もしかして大変なことになってない?」千葉が心配そうに言う。

「まあ、楽しい思い出になったからいいじゃない」富山が笑いながら言う。

「そうだな!」石川は満足そうに頷く。「俺達のグレートなキャンプは、いつも予想を超えた展開になる!」

こうして、石川たちの『俺達のグレートなキャンプ63』は、世界規模の騒動を巻き起こしながら幕を閉じた。

後日、UFO研究家たちが現地調査に訪れたが、既に何も残っていないキャンプ場を前に、「宇宙人が証拠隠滅を図った」という新たな憶測を生み出すことになったのは、また別の話である。

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『俺達のグレートなキャンプ63 キャンプ場に(小麦粉で)ナスカの地上絵を描こう!』 海山純平 @umiyama117

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