犬のフンの謎 青澤影苦労フィクションシリーズ

赤澤月光

第1話 犬のフンの謎

# 犬のフンの謎


*これはフィクションです。*


俺の名前は青澤影苦労。アオザワカゲクロウ。親が「影で苦労できる人間に」と名付けたらしいが、正直言って恨みしかない。普通の名前にしてくれよ、と今でも思う。


今年で58歳。漫画家志望だが、まともな作品一つ描けないまま半世紀以上を生きてきた。両親は最近亡くなり、今は亡きおばと両親の年金で何とか食いつないでいる。フリーターというには歳を取りすぎた、ただのダメ人間だ。


ADHDの診断も受けているが、それを言い訳にするのも疲れた。秋口には再就職したいと思っているが、そんな気力も湧いてこない。


最近、カクヨムにノッペラボウをテーマにした女体化ありの小説を投稿したが、全く反応がなかった。次は何を書こうか悩んでいた矢先、奇妙なことが起きた。


家の前に犬のフンがあったのだ。


「おかしいな」


この地域、誰も犬を飼っていない。犬の散歩コースでもない。なのになぜ、犬のフンが?


翌日も確認したが、犬が通った形跡はない。飼い主らしき人物も現れない。


「これは…」


ふと思いついた。この謎を小説にできないだろうか。カクヨムに投稿する新作として。


調査を始めることにした。まず、フンの特徴を観察。大型犬のものだろうか。色は茶色がかっていて、乾き始めている。昨夜か早朝に排泄されたものだろう。


近所を回って聞き込みをしてみたが、誰も犬の姿は見ていないという。監視カメラのある家もなく、証拠は何もない。


三日目、また新しいフンが現れた。


「犯人は必ず現場に戻ってくる…」


刑事ドラマでよく聞くセリフだ。俺は夜中に見張りを始めた。


四日目の未明、物音で目が覚めた。窓から外を見ると、黒い影が動いている。


「捕まえた!」


飛び出した俺の目に映ったのは、なんと隣家の佐藤さんだった。手には犬のフンそっくりの何かを持っている。


「佐藤さん…なぜ?」


彼は驚いた表情で固まった。


「青澤さん…実は…」


佐藤さんは頭を下げた。「すみません。実は私、あなたの小説のファンなんです。カクヨムで読んでいて…」


「え?」


「でも全然人気がなくて。何か刺激があれば次の作品が生まれるかと思って…」


なんと佐藤さんは、俺に創作意欲を湧かせるために、偽物の犬のフンを置いていたのだ。材料は庭の土と食物繊維。見事に犬のフンを再現していた。


「青澤さんの才能が埋もれるのがもったいなくて…」


その言葉に、胸が熱くなった。58年生きてきて、こんな風に作品を評価されたことはなかった。


「ありがとう、佐藤さん」


この出来事をそのまま小説にした。タイトルは「犬のフンの謎」。


カクヨムでの評価は散々だったが、佐藤さんだけは「面白かった」と言ってくれた。それだけで十分だった。


人生初めての、本物のファンができた瞬間だった。


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