「出生」

注意:残酷描写あり


この日、2人の女が産気づいた。ほぼ同時に産気づいミラとジゼルは幼い頃からの親友だ。ミラは先に元気な双子の男の子を産みきり、今だ苦しみ続けているジゼルを励ますために胸に抱く赤子を見せる。


ミラ「ジゼル、ほら見て…私の子たちよ。元気な双子の男の子。」


ジゼルは息も絶え絶えに、ミラが抱える2つの命を見上げる。


ミラ「せっかく同じ日に産気づいたんだもの。三つ子みたいに育てましょ。私達も全力でサポートするわ。」


ミラ「ね?アヴァリス。」


アヴァリス「…ああ。もちろんだ。」


ジゼルの子には父親がいない。逃げたのでも亡くなったのでもなく、最初からいないのである。

この世界では度々このような不思議な懐妊が見受けられる。そしてその全てのケースで産まれるのは、かつて絶滅した生物の特徴を持った異形。当然、世間の風当たりも強い。しかしそれでも、ジゼルには自分の腹に宿った命を、諦めることはできなかったのだ。


ミラ「頑張って。ちゃんと産めるわ。」


ジゼル「はぁ…はぁ……」

ジゼル「…無理……」

ジゼル「ごめん…もう……力が…」


ミラ「っ…!」

ミラ「ジゼル!頑張れる!頑張れるわ!まだ諦めないで!」


ミラが声を上げたのには訳がある。ここは生活水準の低い地下シェルター、まともに医者などいない。いたとしても治療は高額で、とても一般市民にはと手の届かない額になっている。そんな中、上手く子を産むことができなかった女が辿る末路は一つなのである。


ミラ「アヴァリスも!ジゼルを励ましてあげて!ジゼルなら産めるわ!そうよね?」


アヴァリス「……」


ジゼル「アヴァ…リス…」


アヴァリス「……決意は固まったのか。」


ジゼル「…うん……お願い。」


アヴァリス「……わかった。」


アヴァリスは悔しそうに歯を食いしばると、ベッドの横に積まれた布の一枚を取り、ジゼルの顔に被せる。


ミラ「アヴァリス…?」

ミラ「じ、ジゼル…アヴァリスに、何をお願いしたの…?」


アヴァリス「後ろを向いてろ。」


ミラ「え?なに?なにをするの?!」


アヴァリス「後ろを、向いてろ。」


ミラ「アヴァリス?!ジゼルになにをするの?!」


アヴァリスは言うことを聞かない自分の妻の頭を掴み、後ろを向かせると、ジゼルに聞こえないような小声で耳打つ。


アヴァリス「ジゼルが余計に怖い思いをするから、これ以上不安そうな声を出すのはやめろ。」


ミラ「!!」

ミラ「(まさか…)」

ミラ「(そんな…)」


アヴァリスの言葉から、ミラは全てを理解し、止めどなく涙を溢れさせた。


アヴァリス「……」

アヴァリス「ジゼル、赤子の名前はどうするんだ?」


ジゼル「……」

ジゼル「……メモリー。」

ジゼル「思い出の…子……」


アヴァリス「……良い名だ。」


アヴァリスはそう言うと、ベッドの下に隠しておいた大きな石を持つ。


ジゼル「……でしょ。」


アヴァリス「ああ。」


そしてそのまま、勢いよくジゼルの頭に振り下ろす。

ジゼルは一度ビクリと身体を跳ねさせたが、そのまま動かなくなった。


ジゼル「……」


ミラ「ぁ……あぁ…」


さらに酷く涙を流す妻をよそに、アヴァリスは手早く脈から生死を確認すると、懐からナイフを取りだし、ジゼルの腹を切る。


ミラ「こんなの…こんなのって……」

ミラ「なんで…なんでこんな……ジゼルが…っ何をしたというの…こんな…こんな死に方……」


アヴァリス「ジゼルの覚悟を、こんなと表現するのはやめろ。」


ミラ「!!」


アヴァリスは赤子を取り出し、湯に着け、血を洗い流す。そして、動かなくなってしまったが、まだ温もりが残っているジゼルに添えるように、そっと赤子を置く。


アヴァリス「敬意を表する。」

アヴァリス「ジゼル、お前は母親として、これ以上無い愛を見せた。」

アヴァリス「君の全て、しかと引き受けた。」


ミラは旦那の言葉に、自分も決意を固めたと言うように涙を拭い、産んだばかりの自分の子らを抱き締める。


ミラ「ローガン、リック。」

ミラ「メモリーを、守ってあげてね。」


「出生」~fin~

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自創作詰め きりみ @Kirimi0703

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