第24話 イルゼは微笑む。

 そう言い残して、医者は去っていった。


 イルゼ夫人は振り返ると、ラモンに気づいていなかったのか、少し驚いた表情をした。


「あら、どうしたの。女の子に、何かあった?」


 ラモンは思わず目を彷徨わせる。


「あ、いえ、そういうわけじゃないんですけど。——すいません。ベッド借りた上に、代金も建て替えて貰って。いくらでしたか。」


 ラモンは懐から財布を取り出す。

 それを見るとイルゼは、少し表情を緩めて言った。


「いやあ、いいのよ。あのお医者様はボランティアで顔見知りだし、たまには使わないとね。それに、私くらいの年齢になると、若い子には親切にしたくなるのよ。」


 ラモンは、いやそれでも、と代金を出そうとしたが、イルゼに断られ、それを三回繰り返したところで、結局ラモンが根負けした。


「本当にありがとうございます。」


「どういたしまして。それより、少しお茶をしない。ずっとあの子の側に居たいのなら、別にいいんだけれど。」


 ラモンはそれがせめてもの恩返しになるのではと期待して、承諾する。


「是非、ご一緒させてください。」


 イルゼは目を細め、花が咲いたように笑った。

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ダメ聖女は追放された。 袖下片藍 @IndigoS

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