第19話 ラモンは走る。

 ラモンは森の中を走っていた。

 町の人への聞き込みの中で、ルシアが攫われたのは町の東の方にある小さな森だと分かった。

 そこからは、無我夢中だった。人の隠れられそうな場所を必死で探した。


 小さな森といっても、やはりそれなりに広く、森というだけあって、木など遮るものも多かった。


 ほんの些細な気配も逃さないように感覚を研ぎ澄ませながら死に物狂いでルシアを探す。


 そうして三十分程経った頃、パチパチと火の爆ぜる様な音が聞こえた気がした。思わず息が止まる。

 音の聞こえた方へ足をもつれさせながら向かう。


 その先には無表情に、しかし何かを探している様子の、ルシアがいた。


 そのときには火の爆ぜる音はもう聞こえなくなっていて、周りにも焦げた跡などは見当たらなかった。どうやらあの音は気のせいだったようだ、とほっと息を吐く。


 ラモンが安堵に包まれたのも束の間、ルシアの全身にある、殴られたような赤黒い痕に気づいて血の気が引いた。

 近くに暴漢はいないようだし、第一ラモンが来たのでもう安全なのだが、もしやまだ危険があるのではと錯覚してしまう。

 急いで声を掛けようとしたその時、周囲の木々がざわめき、ルシアが勢いよく振り返った。


 その目がラモンを見つけると、今まで無表情だっ

たその口が引き攣り、瞳が見開かれたかと思うと、すぐに歪んで目尻に皺を作った。

 ——今までラモンが見た彼女のものの中で最も醜悪で痛々しい表情だった。

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