第2話「共鳴」

(SE:朝の鳥のさえずり/微かな金属音)


ナレーション(穏やかな声)

――あれから、二人の少年は毎日のように壁の下に集まった。

話すことで、二つの世界は少しずつ溶け合っていった。


(SE:足音が近づく/壁に座る音)


アトル

おはよう、ベルク。


ベルク

おう、アトル! 昨日、言ってた数式の話、まだよくわかんなくてさ。


アトル

ああ、あれはね、実際に図に描いてみるとわかりやすいよ。

(紙を広げる音)

この三角形と円の関係なんだけど……


ベルク

……へぇ。そっか、手で作る図も、考える道具なんだな。


アトル

うん。君の言ってた木工の図面と似てるかもしれないね。


(SE:しばし沈黙。風の音)


ベルク

……なあ、アトル。お前、なんでそんなに勉強できるのに、あの国が嫌なんだ?


アトル

……「正解」ばかり求められるからだよ。

間違えることも、悩むことも、全部「無駄」だって言われる。

でも、本当に大切なことって、正解じゃないかもしれないって、最近思うようになった。


ベルク

……わかる。俺の国も、手が器用じゃないってだけで、ダメなやつ扱いされる。

「感じるままに作れ」って言われるけど、それがわかんねぇんだよ。


アトル

(静かに)

君の作った木彫り、見てみたいな。


ベルク

マジで? 壁の隙間から通せるかも……ちょっと待ってろ。

(SE:布をめくる音)


(SE:ごそごそとする音/何かが滑るような音)


アトル

(驚いたように)これは……鳥、かな? すごく素朴で、あたたかい……


ベルク

下手だけど、気持ちだけはこめたつもりだ。


アトル

(微笑)ありがとう。……僕も、何か届けたいな。


(SE:紙を折る音/風が吹く)


ベルク

風船? これ、どうやって……?


アトル

折り紙っていうんだ。君の国にはないの?


ベルク

ないな……すげぇ。こんなに軽いのに、ちゃんと形がある。


(SE:しばし風に紙が揺れる音)


ナレーション

互いに異なる価値を持ち寄ったとき、そこには共鳴が生まれる。

それは、同じ言葉ではないが、同じ想いだった。


ベルク

なあ、アトル。


アトル

ん?


ベルク

この壁……壊せると思うか?


(SE:風が一瞬、止まる)


アトル

……え?


ベルク

お前と俺、こうして話せてる。

なら、ほかの人とも、きっと話せるはずだ。

こんな壁、無意味じゃないかって思うんだ。


アトル

……でも、壁は塔の一部なんだろ? 壊したら、何が起こるか……


ベルク

何が起きるかわからないから、試す価値があるんじゃねぇか?


(沈黙。風の音が再び吹き始める)


ナレーション

揺れたのは、風か、心か。

それでも、二人の想いは、少しだけ前に進もうとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る