第51話 もう離れない


 リーグ国では、魔王討伐の知らせとともに、リア王女の第1王位継承権の発表、そして婚約の吉報が各国へ届けられた。



「はぁーー、緊張するわ……」


「授与式よりもか?」


「オリバー、ふざけないで」


「すまない。まさか聖女の授与式で君が想像しえないプレッシャーを抱えていたかと思うと、つい可愛いと思ってしまってな」


「笑いごとではないのよ?」


「すまない……」


 オリバーには、全てを話した。魔族としての記憶を持っていたこと、聖女と偽っているつもりだったことまで全部だ。


「それで? 他に言うことはないのかしら?」


「あぁ、綺麗と言うには今日の君には言葉が足りないようだ」


「ふふっ。あなたもね」


 18才の誕生日、聖女としての力は失ったが、図らずしも予言どおり、オリバーとの結婚式を迎えることとなった。理由は1つ、シシラが里帰り出産をする前に花嫁姿を見たいと切望していたからだ。



「うううううぅっ、リア様……本当に……お綺麗ですわ」


「ありがとう、シシラ。でもそんなに泣いたらせっかくのお化粧が取れちゃうわよ」


「もう、悔いなんてありませんわぁあああ」


「そんなこと言わないで……ほら……」


 シシラのお腹に、安産を祈る。王家が受け継がれる特殊な力『願い』だ。


「リア様……」


「ほら、今からお父様もきっと号泣するでしょうから、あなたがハンカチを先に濡らしちゃダメよ」


 音楽とともに、かつて生誕祭を行った大樹のあるホールに入場する。


「綺麗だ」


「さっきはそれでは言い表せられないなんて言ってなかった?」


「そうだな。でも、綺麗だ」


 何度も言われるとやはり照れる。


「君に再会した日からずっと、この瞬間を夢見ていた」


「そうね、私も……あなたと一緒になりたいっていつのまにか願っていたわ」


 気づけば微笑みながらオリバーを見つめていた。


「〜〜〜〜っ!!」


「?」


「これは、まずいな……もう離せない」


「離れるつもりだったの?」


「君が言ったんだろう?」


「?」


「小人村で、離れている時間が愛を育てるからって」


「っ!? そんなこと言ってな……いえ、今考えるとそう言う意味だったのね」


「愛は育った?」


「言ったでしょう? あなたを好きだって」


「違う」


「?」


「愛している」


「っ!!??」

 

 2人のこそこそ話を片耳で流しながら、司祭が会場に参加する出席者に問う。


「2人の結婚に、異議のある者はいらっしゃいませんか?」


 王が動こうとするのを、隣の王妃が膝をたたく。娘の道中を心配するあまり、食事もろくに食べられなかった時が嘘のように元気になっていた。




「……ごほんっ、神の名において、あなた方を夫婦と認めます」



 大歓声が響く中、国中をかけまわるパレードが始まる。


「ねぇ、オリバー。もし、私がゼビル姫としてあなたに会っていたのなら、どうなっていたのかしら」


「君の冷めた目に惹かれたと言っただろう。きっと同じように求婚していただろうな」


「勇者なのに?」


「関係ない」


「ふふっ……愛しているわ」


「っ!? 今……」


「パレードは3日かけて行われるのよ。落ち着いて……」


『ケロベロス』


「えっ!?」


 今、ケロベロスを呼んだの? 正体は教えたけど……


 光の速さで飛んできたケロベロスは、あいかわらず真っ白な毛並みで、凛々しい姿に化けている。


「行くぞ、リア」


 馬車からケロベロスへと乗り換える。


「お披露目パレードに3日もかけられるか、3時間で終わらせろ」


 国中をかけまわるスピードに、一瞬で全員が置いていかれる。


「ちょっと、オリバー!?」


「10年の片思いだ。大目に見てくれ」


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聖女に生まれた私は元魔王の娘でした 〜勇者との結婚は避けたいところです〜 ちより @tiyori

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