第41話 ようこそ小人村へ

「話は済んだか?」


「えぇ……って、足は大丈夫なの?」


 オリバーは木の枝に足でぶら下がり、筋トレしているではないか。


「平気だ、こいつらが足を治療してくれた。さすが、森の管理人、小人族だな」


「治癒力を高める薬草であります」


「痛みを和らげる薬草であります」


「女性が好きな香りの薬草でありまっ」


「余計なことは言わなくていい」


 一瞬で枝から移動し、小人の口を封じる。軽く咳払いをし、なかったことにしている。


「ふふ、でも、まだ骨がくっついたわけではないのよね?」


「そうであります、無理は禁物であります」


「大丈夫だ!! それより、すぐに出発できる」


「……いいえ、しばらくはここでお世話になりましょう」


「「「「「「えぇっ!!!???」」」」」」


 小人たちの方が驚く。


「ニーロンが、あいつが言っていたことが気になるのよ。聖女を捧げれば完全な復活と占いに出たって……」


「それは、君さえ魔王に近づかなければ復活はないってことなのか?」


「それもあるけど、彼の属性に占いはないはずよ。そもそも、魔族は占いとか予言なんてまわりくどいことしないはずよ」


 そう、魔族なら欲求のままに行動するはずだ。知能の高い上級魔族でも、そういった類の能力は使わない。そもそも、占いや予言は神の啓示に近い。どちらかと言えば聖魔法よりのはずだから、使えるわけがない。誰かがあちら側についている?


「どうして分かるんだ?」


「え?」


「あの魔族の属性が分かるのか?」


 しまった、これも人間が知らない情報だったのね。そもそも、属性が分かるのはゼビルの能力なのよね。でも、オリバーはそんなこと知るはずもないでしょうから、ここは誤魔化すしかないわね。


「……聖女ですもの」


「すごいな、戦う前に魔族の攻撃タイプが分かれば有利になるな」


「ええ……そうね。それで、少し情報を整理したいのよ。ここならあの魔族の縄張りだったはずだから、他の魔族の襲来もなさそうだし、何よりあなたの怪我も早く治りそうだわ」


「俺の、ために?」


 えらく感動しているようだが、そういうことにしておこう。本当は、真実の花をどうするか少し考えたい。


「分かった、しばらく世話になる」


「うっ、了解であります」


「お世話は任せるであります」


「我らの住みかへ案内するであります」


「今度は、本当の住みかへ連れて行ってくれるわよね?」


「もっ、もちろんであります」



 ふぅ。もし、本当はこの身体が聖女になるべき器だったのなら、本来あるべき魂が戻されるってことよね。そしたら、私の魂はどこへ行くのよ。少し頭を整理したいわ。


 今度は先ほどのとは異なり、日当たりの良い開けた場所に案内される。見上げるほどの大木がたっている。


 この木、城にあった木だわ。


 正確に言うと、この木よりはかなり小さいが、生誕祝いの会場にあったあの木だ。


「古代の木であります」


「我らが生まれるずっと前からあったのであります」


「住みかへとつながる入り口であります」


 そう言うと、今度は踊らずに全員で歌を歌う。心地よい歌声に思わず目を閉じる。空気が変わり目を開けると、のどかな村が広がっている。


「我らの家へようこそであります」


「あなた方は初めてのお客様であります」


「どうぞ、明日にはお家を建てるであります」


「今日は族長の家でゆっくりされて下さいであります」



「なんだか、小人達の態度がすごく変わっているわね?」


「あぁ、君が族長と話している間に足が動かせるようになったから、あの魔族が壊した森の修復を手伝ったんだ」


「修復?」


「魔法は大分思うように使えるようなってきたからな。聖魔法も使えるか試してみたんだ。地面に対してエネルギーを流す感覚でやってみたんだが、白い光が輝いたと思ったら、小人達が森が元気なったって喜んでいた」


 なんですって!? 聖魔法を使えるように!? さっきの闘いでオリバー自身のレベルがあがったのね。あの男、余計なことしかしないんだから。


「これで、リアの魔力の負担が減るな」


「そうね……それにしても、聖魔法が使えるなら足の怪我も治した方が早いんじゃない?」


「魔法で治せば元に戻るが、自然に回復を待てば前よりも強い骨になるからな。リアがここで過ごす間は自然に任せることにした」


「そう」


 状況がどんどん変わってきているわ。そのうちオリバーが私の聖魔法に疑問を持つとまずくなるわね。


「お待たせいたしました。案内するであります」


 族長が自ら自宅へと案内する。周りは藁わらで出来た家ばかりだが、さすがに木造建ての広い家のようだ。


「お客様でありますね。先に話は聞いていますでありますわ」


 初めて小人の女性を見る。村には子どもや他の女性達がいるようだったが、今まで小人族の目撃や情報は全て男性ばかりだった。


 弱い者は村の外に出ないようになっているのね。


「……よろしく頼むわ」


「お世話になる」


「外からのお客様なんて初めてでありますわ。食事は腕によりをかけて準備いたしますでありますわ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る