第38話 大嘘つきには制裁を

「それとっ、こんなにたくさんの荷物と私を抱えて歩いていたんでしょう!? 疲れたんじゃない?」


 なんとか空気を変えようと話題を変えてみる。


「むしろ力がみなぎってくるくらいだ。さすが、聖女様だな。リアさえ良ければ明日からもずっと抱えて行くが?」


「結構よ!? ほら……あなたの魔力があると魔王の感知がしづらくなるじゃない?」


「言われたとおり、北西を目指して歩いているがずれているか」


 とっさに指差した後ろからオリバーは腰に手を回してくる。


「ちょおっ!?」


「嫌か?」


 嫌に決まってるでしょおっ!! だれが勇者とくっつきたいと思っているのよ!!!! 手を引き離そうとしたその時、大きな魔力の気配に気づく。


「っ!!」


「リアっ、ふせろ」


 そのままオリバーはかばうように抱きしめると、強い風の刃が飛んでくる。


「っ!?」


「ぐっ……」


 まさか、今のは闇魔法!? それに、この強い魔力は……上級魔族じゃ……


「ふん、意外に護りが強いな。お前たちが勇者一行のようだな……」


 緑の長い髪には2本の角を生やし、風を刃物のように扱うこの男には見覚えがある。上級魔族の……


「うっ、ニーロン……」


「なんだ? そこの聖女、我の名を知っているのか?」


 姿を隠すように、オリバーの後ろに隠れる。


 背中にくっついちゃってるけど、仕方ないわ。上級魔族相手に魔力を使えば、私の正体がバレちゃうもの。


「お前の相手は俺だろう!!」


 怖がって後ろに隠れていると思ったのか、オリバーは庇うように立つ。


「いつまでも防護するわけにはいかないだろう?」


 ニーロンが手を挙げると、真っ黒な雲が出来上がる。そのまま嵐のような風がふきつけ、保護魔法で身を守ってはいるが、その威力は強く、身体にいくつかの傷が出来る。


 私を庇っているから、攻撃に回れないのね。空での戦いも不利だ。弓を持たないオリバーでは反撃のしようがない。


「お前の相手など不要。魔王様の復活が近そうなのだが、様子が違ってな。聖女を捧げれば完全に復活と占いに出た」


 それって、私の魂に残る魔力も持って行くってこと? そんなことしたら、私の存在ごと消えてしまうじゃない!!


「勇者よ、まだ死にたくないだろう? 我は穏便な魔族だ。聖女を渡せば命くらい助けてやるぞ?」


 あんたは昔から大嘘つきじゃない!! ゼビル姫時代、甘い言葉で言い寄ってくるニーロンと、一度付き合った。私と付き合う最高の名誉を受けながら、この男はこともあろうに、格下の魔族の女にも手を出そうとしたのだ。それはもう……あの長い大事な髪を根本から消してやった。それ以来、私の前に姿を現すことはなかったけど……私の気配が消えて戻って来たのね。


「…………」


「リアっ!! 一旦森の中に避難する。動けるか?」


 オリバーの言葉に、我にかえる。


「ええっ、大丈夫よ」


 オリバーはさっと姿勢を変え、かばうように抱えると大きくジャンプする。枝から枝へと飛び移り、森の中へ落ちるように避難する。その間、防護魔法が疎かになる為、背中に深い傷が出来たようだった。


「うっ」


「大丈夫?」


「心配ない。俺から離れないでくれ」



 まぁこれくらいの傷なら命には問題なさそうね。でも、あの男はしつこいからきっとすぐに……


「無駄だと、言っているだろう? 魔族は魔力を検知できる。応じる気がないなら、ここでお前を殺す。聖女にも刃が行くだろうが、まぁお前が身を張って盾になれば死にはしないだろう」


 そう言って、一帯の木々を切り裂く。大きな後とともに、次々に木が倒れていく。


「もう隠れるところはないな。せいぜい聖女様をしっかり守っておけ」


 もう一度手をあげ、振りかざそうとする。


「やめなさいっ」


 オリバーの前に立つ。


「リアっ!! 俺の後ろに……」


「さすがは聖女様。お優しいな。ん? その宝石はまさか……月の石かっ!?」


 ニーロンが宝石に気をそらした一瞬で、オリバーは剣を切り込みにいく。


「っと……」


 そのスピード、ジャンプ力は飛び抜けているが、頬をかすめただけだ。相手も上級魔族、すぐに身をかわす。


「お前……我の髪を切ったな…」


 わずかな量が切れただけだが、その目は怒りに満ちている。落下中のオリバーに手をかざすと、呪詛じゅそを唱える。


 まずいわ、あれは心臓を狙った魔術だわ。守りの聖魔法でも防ぎきれないわ!! ダメよ、ダメ!!


「オリバーーーっ!!」



 心臓めがけ突風が襲いかかる直前、眩しい光が風を跳ね返すように放たれる。龍の姿を見せる光は、そのままオリバーを乗せるように動く。


「これ、は……」


 そのまま空中をニーロンめがけ向かうオリバーの剣は、聖光とともに腕を叩っ切る。


「オラァァァァァッ!!!!」


 そのまま2人は地上へと落ちて行く。砂ぼこりで姿が見えないが、動く人影にかけよる。


「オリバー!?」


 その瞬間、腕をつかまれ月の石を力づくで奪われる。


「っ!?」


「ハァハァ……くそっ、一体今のは……フゥ、状況を立て直す必要があるな。これだけでも、フフ……月の石は魔族が立ち入れない聖殿ばかりにしかないからな。ミリアちゃんが喜ぶ……」


 ミリ……ア?


「ん? 魔力?」


「あんた、あの女にまだ入れ込んでいるわけ?」


「なんだ!? 聖女ごときが生意気な口をきくなら今すぐにでもその命……っ!?」


 溢れ出る恐ろしい魔力にニーロンは信じられないと目を開く。


「そっ……その魔力は……いや、お前は聖女だろう!? そんなバカなことが……」


「何? 私の命なんて……すぐにどうにでも出来るって?」


「ゼ……ゼビ……そんな……まさかっ!? だから魔王様はっお前の魔力が……」


「あんたをこのままにしても、私の気がおさまらないわ……」


「ひっ……」


『消えなさい』




 大きな悲鳴が聞こえ、オリバーが足を引きずりながらかけつける。


「リアっ!?」


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