第17話 10年の我慢

「…………」


「……で、どうして笑っているのよ!?」


「いえいえ、まさかリ……聖女様が私を自ら指名して下さるとは、身に余る光栄と思いまして」


「指名、ではないのよ!?」


「分かっております、フフフ」


 あのあと、他国から指折りの魔法師を専属の付き人にすることはどうにか諦めてくれた。だが、魔法の取り扱いについて指導者をつけたいという意向はゆずられず、結局コードを専任の付き人にする、ということでようやく落ち着いた。


 まぁ、シシアも今までのようにメインとまではいかないけれど、担当継続で残ることになった。




「歴史に残る聖女様として、お力添えさせていただきます」


 もう魔法師として魔力の残っていないコードなら、聖魔法ではないと気づかれる心配も少ない。


 …………魔力が完全に戻るまで、10年といったところね。それまで、隠し通さなければいけない。ふざけた予言までにこの国を乗っ取って、ゼビル姫の復活をしなければならないわ。



「そうね、宜しく」










〜〜〜〜9年後


「きゃああああああっ!! リッ……聖女様、お美しいですわ!!!!」


「シシア……毎年誕生日のドレスアップの度にそのリアクションしているけど、飽きないの??」


「何をおっしゃいます!! 普段は必要ないと言って質素なお召し物ばかり……あの魔法脳男コードが専属で付き人になったばかりに……食べ物から1日の過ごし方までどれも日々過酷なものばかり……陰で支えるしかない私はどうすることも出来ず……せめてお肌が荒れないよう、マッサージすることくらいで……でもこの誕生日だけは!! 聖女様ではなく王女様としてお過ごし頂ける日ですから!!!!」


「分かったから……何も泣くことないじゃない……」


「ううぅっ……聖女様がこの国に……時代にとってどれだけ重要な存在かは分かっているつもりです……ですが、本来何不自由なくお過ごし頂ける方がなぜこんなお辛い日々を……」


「だから大丈夫って言ってるでしょう?? あなたが毎日私の体調に合わせてオイルを調合してくれるおかげで、朝には元気でいられるのよ」


「リッ……聖女様ぁぁぁぁぁ」



 2人きりの時だけは、リア様と呼んでくれているシシアだが、今は他の侍女達もいる手前、聖女様呼びをなんとか保っている。



 まったく、確かにあの魔法脳男コードがここまで手加減ないとは思わなかったわ。思い出したくもない修行ばかり……






「聖女様、まずは教会に1ヶ月こもり、祈りを捧げましょう。まずは信仰の力の基本からでございます」


「聖女様、清めの水でお身体をふくようにして下さい。小さな邪気も許してはいけません」


「聖女様、当分は神が作ったとされるリコの実だけをお食べ下さい。病を癒やすとされる貴重な実で、内側からも聖なる力を高めることを目的に……」






 ダメだわ。思い返しただけでも鳥肌が……内からも外からも浄化されるんじゃないかって、拷問の日々ばかり……魔獣の討伐とか呪じゅの森の遠征とかがなかったら、あの男を消してしまっていたかもしれないわ。



「それにしても……とても、お綺麗になられましたね」


 毎年のように美しいと騒ぐシシラが、急に声のトーンを落とす。


「ふふ、今夜は成人前最後の誕生日でございます。あの男……コード様の予言が正しければ、そろそろ新たな勇者様が現れるかもしれません。普段は聖女様とお会いする機会はありませんから。毎年のように誕生日パーティーは是非参加したいと、多くの殿方からの熱い声が殺到するんですよ。それで仕方なく今年は大規模なものとなっているんです」


「えぇぇ…………」


 ただでさえ、面倒だっていうのに。


「仕方ありません。聖女様とお近づきになりたい者は多いですから。新たな勇者ともなれば大変名誉なことですし、それでなくとも聖女様の加護を欲しいと思う方は少なくありません……それ抜きにしても、これだけの美しさともなれば……仕方ありませんわね」



 なんてこと……こっちはその余計な予言のせいで1日でも早く力を大きくするのに必死だっていうのに……余計な仕事が増えているだけじゃない。



「さぁ、出来ましたわ!! さぁ、陛下も王妃様もお待ちでございます。会場へ向かいましょう」



 シシアの手を借り、ドアを開けるとコードがいつもよりはマシな格好で先に出迎える。


「聖女様、これは美しいお姿で。今宵は王女様とお呼びすべきですかな」


「本日はご存じのとおりリア王女様の誕生日パーティーでございます。ですので、魔法の話はご遠慮頂ければと!!」


 突然現れたコードに一瞬驚きながらも、今日は近寄るのを禁止と言わんばかりに話す。


「もちろんです。ですが、私が1番近い付き人である以上、会場へのエスコートはすべきかと思いまして」


「いいえ、問題ございませんわよ!? いつものように王女様は陛下にエスコートしてもらいますので!!」


「ですから、その陛下が今日はいつも以上に集まる招待客への対応に手が離せないようですので、私がここに来た次第でございます」


「…………」


 さすがに言葉を選んでいるようだ。王命であれば無下に出来ない。


「陛下がそうするようにご命令されたのですか??」


 シシラの直球の質問に、コードは笑う。


「いいえ、ですが陛下のお考えは昔から私が1番存じておりますので」


「それは…………」


「大丈夫よ。パパが無理ならもっと心強い相手がいるから」


「「????」」



 ふふん、いい考えがあるわ。


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