幕間

@xxxaxxxbxxxc

プロローグ <ロングラン公演>

 父の低い舌打ちに、妹の恵美の肩が震えた。私は、笑顔を貼り付けたまま停止する。これは私たちに向けられた不機嫌ではない。だから、


 父が、私を見る。


 「寝る前に恵美の宿題見てやってくれ」


 はあい、少しだけ間の抜けた声を出す。父は、そのまま空になった缶ビールをゴミに捨てると、リビングをあとにした。今のやり取りに間違いはなかったか、脳内で再演する。持ったままのスプーンに気づき、空のカップアイスの上に置いてから恵美を見た。


 「お父さん、これから野球中継だけどいいのかなぁ。今日はリビングでアニメ観ちゃおうぜ」


 「うん、そうしようぜ」


 恵美の表情が緩み、リモコンに手を伸ばした。流れ出した陽気なアニメ。ぐにゃぐにゃした二体のモンスターが、楽しげに会話を繰り広げている。

 テレビに笑いながら、私はスプーンを片付けるために流しに向かう。溜まっていた食器ごと洗い終えてすぐ、母が玄関から帰ってきた。深いため息が聞こえる。ひりつきを増す肌をさすって、私は玄関に急ぐ。おかえり、お母さん。


「あ、家事、また終わらせておいてくれたの」


 お母さんが、食器拭きを持ったままの私を見る。お母さんの驚いた顔、の、演技。一段とやせた身体で、弱々しい笑顔を向ける。わたしは、その雰囲気よりも明るいトーンで言う。


「暇だったから」


 あんたは元気ね、でも、無理しないでね、そう言いながらお母さんは、秋の軽いコートをクローゼットにかけ、荷物を置きに夫婦の寝室へと向かっていく。機嫌の少し悪いお父さんのいる部屋。階段を上がっていく背中を見つめる。踵を返して、妹の座るソファに向かう。


 私は、永遠に降りてこないこの舞台の幕を、ずっと待っている。

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