第13話 『屋上で降りたふたり』
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エレベーターって、誰かと乗り合わせたとき、少しだけ緊張する。
でも、降りてしまえば、もうそれっきりの他人になる。――はずだった。
今回届いたDMは、“すれ違っただけの誰か”が、
なぜかその後もこちらを見てくる……
そんな、“再接触”の恐怖に関する話だ。
水島は配信を開始し、DMを読み上げた。
「はじめまして。アキトといいます。23歳、会社員です。
都内のマンションに一人暮らしをしています。
これは、数日前の夜に起きたことです」
「その日、仕事帰りに宅配便を受け取って、いつものようにマンションのエレベーターを呼びました。“ピン”という音とともにドアが開くと、すでに2人が乗っていました」
「白いワンピースの女の子と、その隣に立つ長い髪の女性。
どちらも目を伏せていて、表情は見えませんでした。
けど、なぜか空気が異常に重くて……俺は何も言えず、そのまま乗り込みました」
「5階に着いたとき、俺はエレベーターを降りました。
でも、ふたりは……“屋上階”で降りていったんです」
「うちのマンション、屋上には住戸がありません。
通常は鍵のかかった扉で、関係者しか入れない場所のはずなんです。
なのに、ふたりはあっさりと出ていった」
「部屋に戻ったあとも、何となく気になって、もう一度屋上階のボタンを押してみました。でも、表示は5階のまま。エレベーターは、そこから動きませんでした」
「その夜は、ずっと落ち着かない感覚が続きました。
誰かが部屋の前に立っているような気配がして、眠れなくて……
深夜1時すぎ、玄関のインターホン履歴を確認してみたんです」
「すると、“3分前”に呼び出しがありました。
録画を再生すると、誰も映っていませんでした」
「けれど、画面の右端。ギリギリのところに――白い紙のようなものが、貼られていたんです」
「画面を拡大してみると、こう書いてありました」
──「5階に用はありません。見ないでください。」
“自分の階”に対して、「用はない」と告げる紙。
それが、“誰か”のものだとは思いたくなかった。
でも、その翌日。再びインターホンの履歴に、奇妙な動きが残されていた。
水島は今回、投稿者の許可を得て、実際にマンションへ訪問し、
鍵を預かり、投稿者の部屋の中から検証を行うことにした。
屋上階の鍵は管理扉で閉ざされており、住人が入れる構造ではなかった。
共有部には異常なし。
ただ――部屋の中の履歴モニターには、未確認の記録が残っていた。
配信開始――
「現在、23時42分です。今は投稿者の部屋の中にいます。
外出中とのことで、鍵をお預かりして検証中です」
「まずは、玄関のインターホン履歴を確認します……」
「……あれ、履歴のひとつ、データが壊れてる。動画再生できないけど……サムネイルだけ残ってるな」
「……これ……まただ。右端に、白い紙。前と同じやつが、また映ってる」
「でも、文字が……変わってる。今度は、こう書いてあります」
──「5階に来ました。開けてください。」
『水島さん、そこ今5階なんじゃ……』
『書き換わってる!?やばくない?』
『その紙、貼ったのってあの女の子たち?』
『待って、それ玄関の内側からじゃない?』
『もう来てるじゃん、まじで逃げて』
水島が無言で立ち上がり、カメラの外に姿を消す。
しばらく画面は固定されたまま、無人の部屋を映し続ける。
沈黙が続いたのち、足音とともに水島が戻ってくる。
その手には――くしゃくしゃになった白い紙が握られていた。
「玄関の内側に……この紙、貼られてました……
ドアを開けると、外には何もなかったのに、紙だけが“内側から”貼ってあったんです」
「……これは、誰かが“中に入ったあと”でしか貼れない。
もしくは――最初から、ここにいたってことに……」
◆翌日の配信
「昨日の紙、今朝確認したら、また文言が変わっていました」
「前は“開けてください”だったけど、今はこうです」
──「あなたが、見ましたよね。」
「……俺は、あのふたりを“見た”。
けど、それって本当に最初だったのか?」
「屋上階で降りたのが“あのふたり”だったのか。
それとも、降りてきたのが“俺のいる5階”だったのか。
どちらにせよ、あの紙は、次の誰かの前にも貼られる気がしてならない」
「玄関のインターホンが、夜中に鳴ったとき。
映っていないはずの誰かが、もう中にいるかもしれない」
──────
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《動画コメントより(抜粋)》
👤明太スパ助
5階に“来ました”って文字、一番怖かった。完全に見られてるやつ…
👤ふじまる@観察中
紙の言葉が変わってくの、もう意思あるよね。呼吸する怪異って感じがして怖い
👤kamome04
内側から貼られてた=もう入られてたってこと……?もしかして依頼者……?
👤黒い静寂
誰もいないのに記録があるの、録画機器が“見てるもの”と違う世界に接続されてる気がして無理
👤yo_yo_yo
異常事態調査室の“ふたりシリーズ”、これ絶対まだ続きあるでしょ…
「降りた」のはふたりだけど、乗ってるのはもっといるってことなんじゃ…
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