第3話
それからの日々、
「
「この構造で凧は飛ばない。後宮の庭は入り組んだ構造で、揚げるために走る場所もない。第一いまは夜で月もなく、この暗さで外遊びなど尋常ではない。却下だ」
「なんと……!!
残り二十日。毎日懸命に遊びの提案をした結果、窓辺でつまらなさそうに書ばかり読んでいた
「
「展開にはおおよそ察しがついていて、真犯人も間違いがないと予想している。続きを読んでいるのは、答え合わせのためでしかない惰性だが……知りたいならお前にも教えてやろうか?」
「えっ嘘、一体だれが主人公の兄を殺めたのですか!? ……いやいやいややっぱり駄目です待ってください!! 後生ですお許しを、あああーっ!!」
続いて残り十七日。先日『
「お花って綺麗で可愛くて、とても良い香りですよね。眺めていると癒されますよね!」
「そういえば古来より、花によって命を落とした人間の逸話が方々に残っているな。あまり知られていないものでいえば、とある花の蜜同士を混ぜ合わせたときに作り出される毒が……」
「癒しの話をしていたはずが、どうして死因のお話に!? うっでも正直気になります、そのお話ぜひもうちょっと……!!」
残り十五日。
「
「……待て、尚食の者たちは普段お前にどのような食事を出しているんだ? すぐに調査させてやる、取り急ぎ最近の食事の内容を話してみろ」
「最近というかいつも同じです。朝は水分多めのお粥、昼はちょっぴりお野菜の入ったお粥! 夜は固形物がちょっと多めで、なんと時々お魚の身が入っていることもありますよ!」
「…………」
「
食事を口にしてもらう前だが、額を押さえて溜め息をついた
「も、申し訳ありません。
「このような食事を皇帝陛下にお出ししてしまうなど、あってはならないことでした……。すぐに宮殿にお戻りになって、お食事はそちらでお召し上がりになってください……」
「…………」
「食べさせろ」
「へ!?」
思わぬ命令を向けられて、ひっくりかえった声が出た。けれども
「その粥はお前が『作った』のだろう? であれば最後まで責任を持ち、お前が手ずから俺に食べさせろ」
「一体何の責任です!?」
まったく飲み込めなかったのだが、
「…………」
「あ、あの……」
それを咀嚼した彼は、美味しいとも不味いとも言わなかった。代わりにもう一度
「――もう一口」
「!」
その翌朝からも、とんでもなく素晴らしい美味しさのご馳走は、三食きっちり欠かさずに、
そして、
「え、ええと……
「なんだ。
それでは寝にくいのではないかと思うのに、彼が気にする様子はない。膝から伝わってくる彼の体温や、預けられた重みに、
「私の膝よりも、こちらの枕をお使いになった方が」
「なんだ。……嫌か」
「そういう訳ではないのですが!!」
気恥ずかしくて落ち着かないなんて白状するのは、もっと恥ずかしいことのように感じた。
けれども
(本当に、綺麗な人……)
どきどきと落ち着かない鼓動に苛まれながらも、彼の顔色を観察する。じっと無遠慮に見つめていると、
「俺の顔に、死因でも書いてあったか?」
「……ご健康な顔色そのものです。ですから
「そうか」
どうでもいいと言わんばかりの返事だ。張り切ってさまざまな策を仕掛けているものの、『
幸いなのは、
もちろんそれ以上のことはなく、
けれどこんなに機会があるのに、
「……お前は本当に、おかしな奴だな」
「?」
巻物を顔の前から下ろした
「俺を生かすために努力するお前を、俺は適当にあしらっている」
「えっ!? 適当にあしらわれていたんですか!?」
「そうだ。何をしても無駄だという徒労を重ねれば、普通は何もかもどうでもよくなるものだろう」
その言葉からは少しだけ、彼の実体験が窺えるような気がした。
「死んでも構わないなどと言う俺は、お前に対して不誠実な存在だ。それなのにお前は毎夜の呼び出しに応じ、枕として身を差し出して、俺の頭を撫でたりもする」
(撫でているのは無自覚でしたが!!)
慌てて手をしゅばっと引っ込めると、
「……本当に、おかしな奴だ」
(いま、
それに気が付いた瞬間に、
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