第4話 第壱章第壱部(続き)
「だけど……」
「心配するな。この国、いや近くの村に来た、なんて話は聞かないだろ?」
「それはそうだけど……」
「ともかく、おまえも子どもも無事でいてほしい」
「そうね……」
小さく同意の言葉を呟きながら、母ちゃんは、五人目の子どもで初めて経験する悪夢に怯えているようだった。
そうでなくとも出産は命懸けだ。経験者とはいえ無事に出産できる保証はない。
だからこそ何が起きるのか、誰に追われるのか分かれば、何とか守ってやれるかもしれないのに、詳しいことが何も分からない。
オレはどうすべきかずっと考え続けた。
そうして不安な夜を何回か過ごしたある日、オレは家族の前で宣言した。
「引っ越す」
「「「「なんで?」」」」
子ども達は非難を込めて揃って声を上げたが、母ちゃんの声を待った。
「はあ? 父ちゃん、やっと独り立ちできそうなのに? まさか」
「そうだ。お前達も薄々母ちゃんの状態に気づいてるだろ?」
「「そりゃあ何となく変だとは思ってた」」息子二人が声を揃えた。
「「アタシ達だって一緒に家事をしてれるから」」娘二人も頷き合った。
「父ちゃんは、母ちゃんに無事5人目を生んで欲しいのに、今のままじゃ、母ちゃんと赤子の二人とも無事だと思えない」
子ども達は固唾をのんで、オレ達の遣り取りを見守った。
「でも、夢は関係ないかもしれないじゃないの。もう安定期に入ったし」
「いや、だからこそ、今しかねーだろ?」
「そんなにすぐ次の職場は」
「心配ない。この村に、弟子仲間が既に独立することになった。同年代の独立を期に別の村に移るのは不自然じゃない」
「それは確かに……でも、行く当てはあるの?」
「噂の国からも、お前の実家からも、この村からも離れたところにな」
「そんな都合のいい場所、簡単に見つかるもんなの?」
「実はな、引退した先輩弟子から、来ないかって話が来てる。ちょっと遠いけど、条件に合う」
ニヤリと笑ったオレを
長女は、この村で独立することが決っている兄弟子の息子に嫁ぐことが決っているから、このままここにいればいい。
長男と次男は父ちゃんの弟子として修業中だ。次女はまだ大人ではないが、家事や子守の手伝いとして役に立ってくれるだろう。
母ちゃんの考えが手に取るように分かる。納得しさえすれば、決断は早いのが母ちゃんという女だ。
「渡りに舟だね。出産まで間があるし安定しているから、何とかなるかな」
オレ達は、引退間近の先輩弟子の村に、長女を残した四人で引っ越すことにした。
幸い、先輩弟子は
新参者が村人に守ってもらうというのは虫が良すぎるだろうが、この村に子どもは少ない。おそらくここで生まれた子は大切には思ってもらえるだろう。
母ちゃんの夢は続いているが、村に旨く馴染めば、経験者の多い女手を見込める分、きっと無事に出産できるはずだ。
続く
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