レベル上げより温泉めぐり!異世界ゆる旅記

eccen.

プロローグ:ブラックと湯けむりと私

その日、私は仕事中に死んだ。


 ——いや、正確には「過労で倒れて、そのまま二度と目覚めなかった」と言ったほうが正しい。


 ブラック企業の総務課。朝から深夜までの残業。休日出勤。食事はカップ麺、睡眠時間は2時間が日常。

 唯一の楽しみは、昔ハマっていたRPGゲームの実況を寝落ち前にちょこっと観ることだった。


「……ああ、また同じダンジョンで詰んでるなあ。あのスライム温泉、回復量高いんだよな……」


 そう思って目を閉じたその瞬間、意識が真っ白になり、次に目を開けたとき——私は草原に倒れていた。


 青空。鳥のさえずり。見渡す限りの自然。そして、なんだか異様に軽い体。


「……え?」


 服が違う。肌も、なんか……ツヤツヤしてる?

 立ち上がると、胸元がばっくり開いた謎の旅装束。スカートも短くて、風が吹けば見えそうだ。


「え、ちょ、何このゲームみたいな服!?え、えっ、えぇぇえええ!?」


 混乱する私の足元に、小さな銀毛の猫がトコトコと歩み寄ってきた。


 ——にゃあ。


 ……その瞳が、不思議と懐かしく、あたたかく、どこか「いってらっしゃい」と言っているように見えた。


「……はぁ、まいっか。とりあえず、温泉でも探しますか」


 こうして私は、異世界の旅を始めることになった。

 レベル上げも、魔王討伐も、今はちょっと後回し。

 目指すは——癒しと湯けむりの冒険譚!

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