甘いものを探して
ちゃみ
甘いものを探して
いくつもある水たまりは器用に、よけて歩く。
雨ってどうしてこうなのかしら。雨上がりの匂いはキライ。
辛気臭くって憂鬱。
なんだか、思いっきり誰かに甘えたい気分。つべこべ言わずに黙ってあたしを受け入れて、この華奢な体を包みこんで、頭をそっと撫でてくれる人。
あのね、言っておくけど道ゆく人、みちゆくひと、あたしのことほっとけないような目で眺めてくるし、挨拶がわりにちょっと見つめ返せば、大抵の人間は有頂天になって向こうからあたしに近づいてくるのよ。
あたしは期待にそぐわずひとりでいることがすき。食事をするとき、商店街を散歩するとき、1日の終わりに眠るとき。だけど、こうやってだれかに会いたくなることもある。たまにね。動けなくなるくらい凍える日や、今日みたいに雨が通り過ぎていった夏の夕方とか。
あたし、今夜はあの人のところに行こうかな。あの、ベランダでくさいワンカップ酒をちびちび飲んでるあの人のところへ。通りから丸見えの、くすぐったい草だらけのあの人の小さな庭はなんだか、落ち着くの。
あの人の家の前には公園があってそこをつっきるのが一番ラクね。
夕方、雨上がりの公園には子どもがいないから静かで、好き。キーキー声や笑い声はあたしにとってたえがたいもの。うるさいったらありゃしないの。あたし、笑うってことをしたことがないわ。
こんなあたしにも子供はいたの。みんなあっという間に大きくなってあたしの元からいなくなったけどね。お父さんはどこかって?赤ん坊がお腹にできた頃にはとっくに何処か、あたしの知らないところへ行ってたわ。独りがすきなあたしにとっては好都合だったわけ。
静かな公園を通り抜けて、あの人の家の前へ行くと、彼はやっぱりいつもみたいにお酒をチビチビ飲んでた。あの臭い液体のどこかそんなにいいのかしら。そのままなんとなしに、あの人を眺めていたら、あの人は俯いてた顔を上げてあたしに気づく。その他大勢の人間と同じように、堪えきれない微笑みをこぼして、あたしを眺めてる。
阿呆丸出しの犬ころみたいに甘えた声を出したり、体を使って喜びの舞を披露したりしないわ、あたし。まつ毛についたままの雨の粒はあたしの目に魅惑的な影を落としている、とあたしは本当によく知っているの。
我慢できなくなったあの人はブロック塀にちょこんと座るあたしを持ち上げて、堅くて暖かい胸の中で、あたしを包みこむ。
「にゃあ。」
こんなふうになけばみーんなイチコロ。
甘いものを探して ちゃみ @lunaticriver
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