—終—

 誰かの声が、今も季節の端に滲んでいる。


冬の雪に還っていった光も。

春の川辺で別れを告げたあの子も。

夏の記憶に沈んだあの男も。

そして、秋に問いを残したままそこに在る、彼も。


そのすべてが、気づかぬうちに私の輪郭をつくっていた。


どこかに還ったわけではない。

どこにもいないわけでもない。


ただ静かに、私の中で、ふいに、溶けて、揺れて、沈んで。

それでも消えずに、息づいている。


――だから私は、きっと、忘れない。

すべての季節を通って、ようやく触れられたこの気持ちを。


それが誰かのためでなくても。

たったひとつの灯りのためだったとしても。


それでも、私は、覚えている。

光を求めていた声があったことを。

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移ろいに糺す @ao_nogis

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