第57話 【人畜無害】の真実
決闘、いや手合わせの時が来た。
約束の日時に約束の場所に来るとペルシュさんが木刀を数本用意して待っていた。その木刀の中から好きなものを選べということだ。僕が先に選んだのでもしも木刀が折れたりしても文句は言えない。選んだ僕自身が悪いのだ。
手合わせの場所には騎士団長さんと冒険者ギルド長さんが立会人として来てくれていた。
ルールは魔法は身体強化魔法だけだ。攻撃魔法や妨害魔法は使えない。
僕としては異存はない。
審判の始めの合図があった。僕は身体強化魔法は掛けていない。素の状態でどこまで戦えるのか試してみたかったのだ。
ペルシュさんは強敵だ。構えに隙が無い。足さばき。視線の動き。どれをとっても一流だ。僕も本気で相手しないと失礼に当たる。
ペルシュさんが動いた。剣を僕の目の高さで突っ込んでくる。
速い!ちょっと油断したら命取りになる。
身体を少し動かして相手の剣を弾いた。
カキ―ンと乾いた音がして相手の木刀をを大きくそらせることが出来た。そこでこちらも喉元に突きを放つ。彼女も僕の木刀を弾いた。
そこから木刀の打ち合いになる。丁々発止お互い譲らずに打ち合う。隙をみて当てようと試みる。
一瞬ペルシュさんの動きに戸惑いが見られた。罠か?罠でも構わん。今が攻め時だ!僕は下段から木刀を振り上げて彼女の手首に木刀を当てた。彼女は木刀を放してしまった。
「参りました」
彼女は礼をした。
僕は言う。
「ペルシュさん身体強化していなかったでしょう。今度は強化した状態で戦ってみませんか?」
「それはテラノさんも同じでしょ?でも魅力的な提案ですわね。是非お願いします」
2人の会話を聞いていた騎士団長は思った。
(あの動きでまだ本気じゃなかったというのか⁉本気になったらいったいどういうことになるのやら……」
僕はペルシュさんの手首に治癒魔法を掛けて、正常な状態に戻した。これで心置きなく戦えるだろう。
◆◆◆ 再度「はじめ!」の声が聞こえた。◆◆◆
今度は最初から激しく動いた。
2人が踏みしめた足元の土が、動くたびに土煙を巻き上げて観客の視界を奪う。その中で何やら凄いスピードで動き回っているのに気が付くだろう。絶え間なく木刀の打ち当たる乾いた音が聞こえているはずだ。
カッキーーーーン
一際鋭い木刀の折れる音が聞こえて折れた木刀が砂埃の中から飛び出てきた。それも2本。両者の木刀が折れたのか?
今度は乾いた音ではなく肉体を殴りあう鈍い音に変わった。
誰かが風魔法で視界を復活させた。素手で殴り合い、蹴りあっている2人が視認できた。
「は、早すぎて何がどうなっているのか分らん!」」
「いや、テラノ君の動きが鈍い」
「ペルシュの方が有利なのか?」
「いやいや、ペルシュの攻撃は左程効いていない。テラノが遠慮しているような動きだ」
「相手が女だから本気になれないのか?これが彼の弱点なのか?」
「いや待て、ペルシュがイラついているような気がする。攻撃が雑になっているようだ」
「うむ、確かにテラノ君は彼女の顔に攻撃していないようだな。フェミニストっていうところかな?」
「それが彼女をイラつかせているんだろうな。ペルシュは男も女も関係なく全力で戦いたい脳筋だからな!」
「お、動きがまた激しくなった。テラノの顔にペルシュの拳が!」
「避けた!テラノの拳がいつの間にかペルシュのみぞおちに!」
「「決まったな」」
「勝負あり。勝者テラノ!」
◆◆◆◆◆◆
無心で戦って、気が付くとペルシュは地面に横たわり意識を失っていた。そうか僕の拳が彼女の
身体強化のお陰で彼女の命に別状は無いようで、一安心だ。
念の為に治癒魔法を掛けて置いた。
息を吹き返したペルシュさんの第1声が怒気を含んでいた。
「あたしを女と思ってあんなに手加減したのですか⁉」
「え、ええと……」
「手加減されてさえ手も足も出なかったあたしの弱さを思い知らされました。完敗です。お手合わせ下さいましてどうもありがとうございました」
ペルシュさんは涙を浮かべて頭を下げた。
「こちらこそありがとう」
「テラノサンのギフトって【#$%&・人畜無害】なんですよね?人畜無害なのになんでそんなに強いのですか?」
「「俺たちもその訳を知りたい。君の命取りにならない範囲で良いので教えてくれないか?」」
「いいですよ。先ず、#$%&とは僕の母国の文字で【対敵無双】という意味です。つまりペルシュさんが殺意を持って攻撃してきていたら僕も容赦なく殺していたはずです。でもペルシュさんの思いに修行の想いしか感じられませんでしたので治癒魔法で復活できるダメージしか与えませんでした。これは僕の意思ではなくギフトに操られていたといってよいでしょう」
「つまり君は端的に言うと【ジェイミー神様】の意のままに行動していたってことなのかな?」
「ええまあそんなところです、それで【人畜無害】の真相なんですけど僕の周囲にいる敵意の無い人に対しては完全防御のギフトなのだと思っています。もしもペルシュさんに殺意が有ったなら僕の防御結界は自動的に攻撃反射していたはずなんです」
「「「なるほど」」」
「あたしテラノさんに殺意を抱いていなくて良かった。でなかったら今頃は……」
ということで、皆さん納得してくれた。本当にそうなのかどうか神のみぞ知るだ
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