第23話 魔道具師と獣人の子

全てをフィーリィに任せ、僕は自分の気の向くままに魔道具を見て回ろう。そう思ったのだが…


「この獣風情がぁ!」


ボコッ!ドゴッ!


「っ…」


「なんだぁ?その反抗的な目は」


「おうおう、ガキがよぉ。人様の道を堂々と歩いてんじゃねぇーよぉ!」


ボコッ!バコンッ!


「………」


珍しい魔道具を求めて路地裏に入ったのが良くなかった。ガタイの良い男一人とその金魚の糞が子供に八つ当たりしていたのだ。


「あ?何見てんだ!」


「テメェも殴られてぇよぉだなぁ!ん?こいつもガキじゃねぇーか!やっぱ泥臭えガキ共は群れるのが好きみてぇだなぁ〜。大人しくクソの中にでも入ってろよぉ〜」


“重力操作魔道具”


靴に付与された魔法の効果。それは対象に掛かる重力を操作するもの。その気になれば空も飛べる。今回はムカつくアホどもに身の程を解らせる為に使用した。


メキメキメキメキ…


「「…!?」」


彼らは自分に何が起こっているのか分からないだろう。今、彼らは這いつくばり地と同じ高さになっているのだから。


「やっぱり、モナン!アスト居たよ」


「アストさん!置いて行くなんて酷いです!それより、その子は?」


「ゲッ…」


面倒な奴らに見つかってしまった…


「モナこいつ怪我してる。治せ」


「もう!後でちゃんと説明してくださいね」


治癒魔法で獣人の子を治そうとした時、手を叩かれた。


「触るな人間!」


「治癒不要。君、モナンを叩いた?」


こらこら、フィーリィくん。殺気を抑えなさい。彼が怯えているではありませんか。


「事情は後で聞きます。今は私を信用して傷を治させてくだいませんか?約束します。私たちは貴方に危害を加えません」


彼はモナの言葉を聞いてはいた。だが、何故か分からないが僕から目を離さなかった。

その目は警戒しているように感じ、僕は彼から距離を取った。勿論、モナが見える範囲までだが。


治癒魔法で傷を治すと、彼は身体に異常が無いか確かめるようにその場で跳ねた。


「姉さんスゲェーんだな」


モナは誇らしげに胸を張った。彼は尚も僕を警戒していた。居心地が悪くなり、二人に彼を任せその場を後にした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

騒ぎになる前に裏路地から離れ、街の噴水広場で話を聞いた。

彼の名前はグリーゼ。ヒョウの獣人。お姉さんを追いかけて獣人の国から旅をしてきたようだ。


「俺たち獣人はどの国でも同じような扱いさ。虐げられる。魔物に似てるからってな…チッ、でも姉さん達は違うな。優しい。聖獣様が懐いてるわけだ」


「ワン!」フリフリフリ


(もうすっかり飼い犬な事は言わないでおきましょう…)


「疑問。アストは君を助けたんでしょ?なぜ警戒してたの?」


「え!?そうなんですか!!っていつの間にかアストさん居ません!」


((いや、気づくの遅…))


「ゴホン。それで、なんで?」


彼は少し考えるようなそぶりの後、ゆっくりと話し出した。


「俺たちヒョウの獣人は災いに対する嗅覚が他の獣人達より優れてる。基本的に争い事は好まないし、避ける。だからここへ来た」


「?」


「…どういう事?」


「ここは災いの気配がする。俺はこの国で何か大きな事が起きるって思ってる。そんで見つけたのが“アイツ”だ。そりゃ驚きもするさ」


「災いとアストさんに何の関係が???」


「ああ…」


フィーリィは察してしまった。いや、彼、アストの異常性を目の当たりにした人は皆納得するだろう…一部を除いて。


「異常な魔力、気配、詠唱も魔法も発動させずにゴロツキを制圧できる力。ハッキリ言って化け物だと思う」


「…」ウンウン


「姉さん達よくあの化け物と一緒に居られるよね…正直なんで姉さん達がアイツと居るのか分からないよ」


「そうですね…逃げ出した先で掴んだ新たな道。今まで経験した事ない奇日常を齎してくれるからでしょうか?それとアストさんは化け物じゃありませんよ!凄くカッコいい人です!(ドヤ)でも少し意地悪な人です…」


「概ね肯定。私は彼が居なかったらモナと喧嘩したままだったと思うわ。それにこの奇日常(にちじょう)も悪くないと思ってるしね」


二人の話を聞いて、グリーゼは少し考えを改める事にした。


「怖いけど、悪い人じゃなさそうだね。人は見かけに寄らない。人間達にされてきた事を俺も知らず知らずの内にしてたみたいだ。ごめん」


噴水の広場でグリーゼとは別れた。アストを探そうかと思ったが、もう少しで日が暮れそうな事に気がつき宿へと戻った。宿に着くと既にアストが寛いでいた。


「喝。よくも私たちに押し付けたわね」


「おかえりー。どうだった?」


「喝。悪かったの一言くらい言えないのですか!」


「いや、丸々任せて悪かったと思ってるよ…お詫びに甘味買ってきたから好きなだけ食え」


「も、物で釣るだなんてサイテーね♪」


二人のやり取りを聞き、ふとグリーゼとの会話が頭によぎった。


(アストさんが悪い人なんて…そんな事絶対ありません!)


「私も欲しいです!」

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魔道具師の奇日常 なのの蜜柑 @NanonoM

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