第32話 会社が危機なんです

 急に社長業を任されたヤンヌは右往左往し、作業員たちを繋ぎ止めたいが空回りする。



 昨日は、作業が手につかなかったし、帰宅してからも、いつものタワーマンション夜景すら見る気になれなかったアケビ。急激な環境の変化に心身共に疲労したので、早く眠りについた。そのせいか、早く起きてしまい、出勤時間まで早くなった。

辞めるタイミングを失ったが、他に行く宛もなく、職場がどうなるのか、気になったのも早く出勤した理由。


 エアバイクを駐車場に停め、会社に向かう。いつものように、早朝メニューを提供する飲食店の香りがそそられるが、階段を駆け上がり通路を早歩きで進んだ。


「オハョォゴザァース」


 オフィスJKMへ挨拶しながら入るアケビは、慌てすぎて挨拶が不完全。苦笑いするアケビだが、辺りを見ると、椅子に座り、前傾姿勢で燃え尽きたように見えるヤンヌがいた。


「ヤンヌさん、おはようございます」


 改めてアケビがヤンヌに挨拶をした。

 その声でようやく気がついたヤンヌは、力なく立ち上がり、体を左右に振りながら、どうにかアケビに近付いてくる。


「アケビさ~ん、みんな辞めちゃった~」

「ん゛な゛ぁぁぁぁ~」


 アケビは、奇妙な声を出し、天井を見上げた。


「どうなるんですか?どうするんですか?ヤンヌさん」

「ど~しましょうか~。ゲーダ会長に連絡しても出てくれなくて、あ~、もぉ~」


「事業存続以前に、会社予算預かってるんですよね?」

「ワタシが経理担当だから、銀行口座の資産数字は知ってます。ただ、それを使うにしても、解体用アンドロイドの仕入先は教えてもらってなくて、他に何か始めるにしても、この賃貸料は高額なんです。何しましょう、二人で」


「これまでの解体作業は、数こなさないと会社維持にならないですよ。倒産ですか?」

「経理上のお金はあるので、倒産ではないです。でも、廃業は選びたくないです」


「でも、何をやるんです?」

「この状況は試されているというか、『自分でどうにかしてみろよ』って放置されてると思うんです」


「ゲーダ会長からですか?そもそも、ヤンヌさん経営やってないのに」

「えぇ、ゲーダ会長をお節介で世話焼きしすぎたからかもしれません。最近、相手にされなかったので」


「愛人が12人もいれば、相手にできないでしょ。あ、会社では一緒か」

「それほど、一緒でもないのですよ」


 プルルルルルル


 アケビとヤンヌが話し込んでいると、会社の電話が鳴った。普段にないドタバタと駆け足で電話を取るヤンヌ。


「お電話ありがとうございます、オフィスJKMです」

「なんだ、まだ会社名変わってないのか?」


「ゲーダ会長!」

「おい、ヤンヌ、何度も連絡していたようだけど、どうした?」


「どうしたじゃないですよ、アンドロイドの仕入先知らないですし、会社の業務引き継ぎが全然行なわれてません」

「あ~、そうだなぁ」


「銀行口座もどう扱ってよいか分からなくて、会社予算どのようにしていくんですか?」

「ん、口座はオレのものだからなぁ、別に使うぞ。あ、そうだ。今、琉金物流倉庫にいるから、こっちに来てくれないか?ここで話をしよう。それじゃ」


 一方的な内容で、電話が切られた。


 静かに受話器を置き、ヤンヌが言う。


「電話は、ゲーダ会長でした。今後の資金面について話してくれるようで、琉金物流倉庫にいるそうです。巡回バスの何番路線が通るか調べます」


 ヤンヌは、コンピュータを使い調べだしたが、関係ない資料を見たり、焦りから何をやっているのか分からない様子が見て取れる。

 アケビは、これ以上関わらなくてもよかった。実際、会長職と愛人の揉め事に発展しているので。ただ、普段冷静な姿の人物が単純な事が出来なくなっている姿は、放っておけなかった。


 アケビが、ヤンヌに近付いて話した。


「ヤンヌさん、巡回バスを待つより、アタシのエアバイクに一緒に乗って行きませんか?」

「へぇっ?アケビさんの膝の上に乗るんですか?」


「いや、一応二人乗り可能なんで、後部座席です」

「はい!お願いします!急ぎましょう!」


 即決な言葉に驚いたが、アケビとヤンヌは戸締まり確認をして、照明を消し、駐車場に急いだ。


 アケビは、エアバイクのドアを開け、座席を前にずらし、ヤンヌを座らせる。そして、座席を戻し、カードキーを挿し込んでシステムを起動させた。


「どうされました?普段だと、このような時間に乗られませんのに?」

「うん、緊急事態。出力最大、二人乗りだから、安定感を持たせて欲しいけど、いつもより、加速させるから」


「お客様が乗っておられるのですね、ようこそ!よろしくですわっ」

「ですって、ヤンヌさん」

「あ、どうも、こちらこそ、よろしくお願いしますぅ。バイクって、こんな感じで喋るんですね」


「アタクシは、いつでもこうですわっ」

「こうなっちゃったねぇ~」

「ははっ、はっ、はぁ」


 アケビは、駐車場から交差点に出ると、アクセルを踏み込んだ。高音な機械音、進行方向からくる風圧、二人分の荷重を押し上げる空気圧。高速移動ながら、ブレもせず、安定した走りで、あっという間に琉金物流倉庫に到着した。


 駐車場にエアバイクを停め、アケビはシステムに話しかける。


「今から、要件済ませてくるんだけど、すぐ走らせられるように待機状態にしておくって可能?」

「問題ありませんわ。今日の天候から、発電量も十分ですし、待機状態での消費電力なんて、大したことありませんの」


「了解。それじゃ、行ってくるよ」

「ご安全に、ですわっ」


 ヤンヌを降ろし、アケビは一緒に琉金物流倉庫に入っていく。


 アケビは、夜しか来たことなかった倉庫内。客の数は少ないが、端の方で、水の入ったドラム缶を押し続ける人たちがいて、他には黒いパワードスーツを着た人とパワードスーツを着ていないが何やら話し込んでいるように見えた。


「ヤンヌさん、あの遠くにいる黒い姿、あれでしょ」

「あぁ、そのようですね。まったくもう、世話の焼ける人だこと」

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