第28話 「休む」って

 エアバイクで出勤したアケビは、余裕を持って会社に到着した。



 アケビは、朝の挨拶をしながら、オフィスJKM内に入る。


「おはようございま~す」


 アケビが社内に入ると、ヤンヌとトニーチが出勤しており、他はまだのようだった。


「アケビさん、おはようございます。今日は、渋滞に巻き込まれなかったんですか?」

「今日は、エアバイクの慣らし運転頼まれてたので、周回バスじゃないんですよ」


「そうなんですね。たまには、違う移動手段もいいですよね」

「えぇ、バスのような途中停車が少なくて、楽な感じはしました」


 そこへ、トニーチが近付いてきた。


「やっと、アレ直ったのか。アケビも車にしておけば、もっと快適で運転操作も面白いのに」

「そうですか」


 アケビが、無表情で短く返事を終わらせたので、トニーチの顔が緊張で引きつり、少しピリッとした冷たい空気がその場に流れた。


 ヤンヌがその場を変化させようと話をした。


「あの、アケビさん、朝礼でもお伝えするんですけど、今日は、ゲーダ社長がお休みです」

「分かりました」


 アケビは一礼して、自分の作業台へ向かった。

 おそらく声が聞こえないと思われる距離になって、トニーチがヤンヌに言う。


「あいつ、エアバイクなんかに乗ってんだよ。しかも、かなり古い。車が良いのにな」

「トニーチさんって、ご自身の固定概念を押し付けられるのって、平気ですか?こだわりは、ご自分の中だけに留めて置かれた方が良いですよ」


 ズバッと指摘されたトニーチは、口をモゴモゴさせ、言い足りないようだったが、他作業員たちが出勤してきたため、席に戻っていった。


 その後、朝礼の時間となり、ヤンヌがゲーダ社長が休むことが伝えられた。合わせて、ヒドノラの正式解雇も伝えられ、ヒドノラが担当だった解体部位は、他の作業員数名が分けて作業を補うことを決められた。作業量は増えたかもしれないが、結局やることは同じ。他のアンドロイド部位を分解・解体していたら、なんとなく特徴が見えてくる。なので、淡々と作業を続ける作業員たち。


 翌日もまた、社長であるゲーダは休み。ヤンヌの携帯電話にメッセージが届き、[今日も休む]と。経理であり、ゲーダの愛人であるヤンヌは、ゲーダの体調を心配した。会社の電話、ヤンヌの個人携帯電話から電話をかけるもゲーダは電話に出ない。おろおろして経理の席周辺を徘徊するヤンヌの姿は、離れた席のアケビにすら確認できるほど。

 その日の終業時間、帰宅する作業員たちに紛れるアケビ。そこへヤンヌが呼び止める。


「アケビさん、ちょっといいですか?」

「はい、なんでしょう」


「週末で早く帰りたいでしょうが、あの……」

「同じこと繰り返し言われてるように思いますが?一呼吸おいて、言ってみてもらえますか」


「す~、ふぅ~。ゲーダ社長と連絡が取れないんです。一方的にメッセージだけ来て」

「メッセージ来るってことは、無事なんでしょう。それに、ご家族がいるなら、体調悪ければ病院行くと思いますよ」


「はぁぁ」

「あの~、先日トニーチさんと一緒に出て行かれましたよね?それなら、トニーチさんに伺われたらどうです?」


「トニーチさんは、『自宅に送っただけで、後は知らない』と言われて」

「ん~、そうなんですね。そう言われてしまうと、聞きようがないので、週明けまで待って、それから、トニーチさんと自宅に行ってみたらどうですか?」


「ワタシが愛人でもある以上、自宅には……」

「そこ、気を使っても、ヤンヌさんは、オフィスJKMの社員なので、大義名分でも利用して突撃してください」


「は、はい」

「とりあえずは、この数日待ちましょう。そして、週明けに判断ってことで」


 ヤンヌを落ち着かせ、アケビは会社を出る。それから、駐車場からエアバイクに乗って、ヤヅキ解体に立ち寄った。

 入口前にエアバイクを停車し、声をかける。


「こんにちは~、エアバイクの点検お願いしま~す」

「は~い」


 タオルで手の汚れを拭き取りながら、ブンタンがやってきた。


「こんちわ、アケビさん。乗り心地はどんな感じ?ふらつかない?」

「安定してるし、システム補助が効いてるから、走行も問題ないよ。ただ、機械のことは専門家に任せないと、よく分からない」


「それじゃ、エアバイクを中に入れて、2番目の白枠に停めて。爺ちゃんと一緒に確認するよ」

「了解。移動させるね」


 アケビは、ブンタンの指示通りに、壁に[2]と書かれた白枠の場所にエアバイクを停めた。


「よぉ、アケビさん。見た感じ、エアバイクの方が順調そうだな」

「お疲れ様です、加速減速や制動も問題ないように思います。システムとの会話も楽しんでます」


「あ~、あれなぁ。普段、あそこまで会話しねぇんだよ。AIの成長度が高いとでも言うのかなぁ」

「ウチのカスタムAIとは文字会話なので、音声会話にしっかり個性が出てるって驚いてます」


 ハッサクとブンタンは、測定機器を用いて、エアバイクのあちこちを調べている。アケビは椅子に腰掛け、出されたお茶を飲みつつ、爺と孫の作業風景と建物内を眺めていた。これまでが、裏口で施設の壁を見ながら話をしていたので、じっくりと建物内(会社内)を見ていなかった。天井からぶら下がるクレーン、たくさんのケーブルが接続されている大きな箱、壁には工具類が整頓され取り付けてある。その横には、パワードスーツがある。なかなかのオイルまみれ。換気はされているけど、建物内は工業的な香りが充満している。燃料の匂いは苦手だけど、まだマシな香りかな。


「アケビさ~ん、問題ないみた~い」


 ブンタンが、動き出した機械音に負けないよう大きな声で言った。

 アケビは、エアバイクの方へ近寄る。


「次はどのくらいの間隔で、点検してもらったらいいの?」

「当分、大丈夫かな。異常があれば、システムが教えてくれるし」


「そうなの?元が年代物って感じだから、よく分からなくて」

「気になるんなら、2~3ヶ月ごとに点検確認だろうね」


 ブンタンは、ハッサクの方を見て、確認した。


「そうじゃな、そのくらいの間隔が無難だろう。そもそも、見えない所の部品を大幅に交換しておるから、不具合も起こりにくい」

「分かりました。それじゃ、たまに顔出します」


 アケビは、ハッサクとブンタンに深々とお辞儀をして、帰っていった。

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