第15話 気分転換
ジャンクフェスで探していたものが身の丈にあったものではない事が分かり、現状に苦悩するアケビ。
朝になって、部屋を見ると本当にひどかった。片付けられていない室内、洗濯かごには積まれた衣類。
「臭くはないけど、ヒドノラのことをあれこれ言えないじゃん。いや、アタシはあんな人ではない!だから、今日は掃除!洗濯!断片化された情報の整理整頓!」
気合を入れたアケビは、ジャンクフェスの開催宣言を思い出し、駆け巡るようなメタルサウンドの曲をかけ、テキパキと作業を始めた。
洗濯機を回している間に、掃除機をかける。その後、洗濯物をベランダに干し、ある程度片付いた部屋を見る。
「よ~し、こっちもやるかぁ」
複数のコンピュータが置いてある部屋。さまざまなケーブル類が床を這い、絡まっている。
まず、1台分に繋がっているケーブルを紐解き、拭いてきれいにする。それから、コンピュータの蓋を開け、内部の清掃。エアスプレーと掃除機を用い、埃を吹き飛ばして、吸わせる。床に置いていると、コンピュータ内部に埃をずいぶん溜め込み、詰まったり、燃えなかったなと考えさせられる。
残りのコンピュータも同様に内部清掃と簡単な点検作業を行なった。その結果、コンピュータの排気音がとても静かに変化した。
掃除の後、コンピュータの起動確認として、通信アプリを確認する。しかし、誰も情報更新をしていなかった。
「忙しいのか、それを理由に放置しているか。でも、疑っちゃいけないか。アタシも、最近カスタムAIすら動かしてないし」
アンドロイド樹脂脳核の解析が皆うまくいかない。それに、それぞれの忙しさが加わって、頓挫。
[アケビ:あえて言おう、休息の時だと!]
アケビは、通信アプリに入力して、コンピュータの電源を落とした。それから、洗濯物を取り込み、爽やかな風が室内に舞う中、洗濯物をたたむ。いつもとは違う充実感のある休日。日が傾きだした各部屋を眺め、見違えるようにすっきりと整理整頓が済んだ。
「早くやれよ、こういうのは」
自分自身にアケビは言い聞かせる。没頭したり、環境に嫌な思いをして、その心内が部屋に現れていたようだ。部屋を片付けるように思考も整理整頓すれば、もう少し早く気を紛らわせたり、引きずらないで済んだのかも。そんなことも考えていた。
出勤すれば、淡々といつもの業務をこなしていく。何か大きな変化が起きる業務でもない。アケビは、いつものように樹脂脳核を集め、また仲間に配布出来るよう準備をしている。
それは、週の中頃だった。昼休みの時間帯、経理担当のヤンヌがアケビの元にやってきた。
「アケビさ~ん、お客さんですよ。訪ねてこられてます」
「え、アタシにですか?」
「はい、若い男性です。作業服着た」
「?」
アケビは首を傾げながら、ヤンヌと共に会社入口まで行く。
「ほら、あちらの方です」
「わ、来たんだ」
通路で待っているのは、ブンタンだった。
「いや~、会社探したよ、オネーサン」
「先日はどうも。どうしたの、わざわざ訪ねてきて」
アケビは、ヤンヌに会釈して、通路に出た。少し広い階段付近に移動し、ブンタンと話をする。
「アケビさんの連絡先知らないから、エアバイクの状況を伝えるには、直接会社に行くしかないじゃん」
「あ~、そうねぇ。でもさ、アタシはそもそも欲しかったわけでもないから、2~3週間先にでも顔出したらいいのかな?って思ってたよ」
「確かに、そう言われたらそうだけど、爺ちゃんと確認作業を続けているから、それは伝えたくて」
「故障原因は見つかりそうなの?」
「いくつか部品が焼き切れてる所が見つかって、その部品の納品待ち。交換が済んでから、システム状況を確認するんだよ」
「ちゃんと原因見つかってんだね。……見つかるといいよね」
「なにそれ、すごい含みもたせた言い方」
「あぁ、アタシがね、アンドロイドの樹脂脳核解析やってて、それがずっとうまくいかなくて、仲間も中断してる状況」
「樹脂脳核ね。入手可能な人たちがハマってるやつだ。情報や資料があんまりないから、難しいんだよ」
「そうなの。カスタムAIも育ててるけど、解析には何か足りないのかなってね」
「アケビさん、ソフトウェア面もいけるんだ。カスタムAIは難しくて、ちっとも分からない。爺ちゃんに『もっと調べろ』ってよく言われる」
「カスタムAIは慣れだと思うよ」
アケビはブンタンと挨拶するだけだったはずが、話し込んでいた。オフィスJKMの作業員たちとは、弾まぬ会話内容。二人の年齢差はそれなりにあるが、それを感じさせない気さくなやり取りがあった。また、アケビはブンタンのタメ口も、どうでもよくなっていた。
ブンタンが携帯電話の時計を見る。
「あ、そろそろ戻らないと。アケビさん、連絡先教えて?」
(まぁ、ゲーダ社長のような口説いたりは、この子にはないだろう)
アケビは少し考え、携帯電話をポケットから取り出す。
「時々仕事終わりに、顔出すかもしれないから、気まぐれな感じを待っててよ」
「了解。爺ちゃんと待ちぼうけだ」
ピローン!
携帯電話の通信機能を使って、お互いの連絡先交換を行なった。
ブンタンはアケビに手を振り、職場に戻っていく。
アケビがオフィスJKM内に戻ると、ヤンヌが近寄ってくる。
「あの方、親戚の人とか?」
「いえ、ヤヅキ解体って1階にある会社の人です。ジャンクフェスで色々ありまして」
「"お姉さん"と呼んでたから、勘違いしました。それに、アケビさんが話し込んでいるのを見かけたことなかったんで」
「そうですか?社内だと、必要以上に話すのは
アケビは、自分の席に戻っていった。
作業に集中し、アンドロイドの眼球カメラの取り外しをしている所、ゲーダがアケビに近付いてくる。
「お疲れさん、アケビちゃん。作業は順調?」
「はい、細かい部分触ってますが、何かありましたか?ゲーダ社長」
「さっきな、ヤンヌから別会社の者とアケビちゃんがワイワイ話してたって聞いたからよ、取引先なのかと思ってな」
「いえ、ヤンヌさんにはお話してますが、ジャンクフェスで訪れた会社ってだけです」
「あ、そうなの?ところでさ~、最近改装されたホテル最上階レストランがすごく良くてさ、近いうちに一緒に行かない?」
「行きません」
「そう言わずにさぁ~、アタッ!イタタタタ!」
「社長、作業の邪魔しないでください。お話があります」
ヤンヌが静かに忍び寄り、ゲーダの左腕を背中の方に回して関節を極めていた。騒ぐゲーダをグイグイ押して、ヤンヌは社長席まで運んでいる。
アケビは、その姿を見ることなく、また作業に没頭した。
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