第6話 待ち合わせ
仕事を終え、待ち合わせ場所へ向かうアケビ。
周回バスに乗り、自宅方面へ行く路線に乗り込む。帰宅ラッシュの時間なので座れることとはないが、今日は2つ手前のバス停で降りるため、運転席に近い場所に陣取った。相変わらず、夕暮れ時のバスから見る景色は灯りが少なく、なんだかつまらない。憧れのタワーマンションも方向が違うので見ることも出来ない。
少しそわそわしながらバスに揺られ、車内の案内表示を見る。[コインランドリー前]と表示が切り替わった瞬間、アケビは降車ボタンを押した。『そんな急いで押さなくても』そう周囲に思われるくらいに、素早かった。
アケビが降りたバス停の道向かい、建物や駐車場の街灯に薄明かりが灯る。横断歩道を急ぎ足で渡り、近付くと見える落ち着いた藍色の建物。看板には[コインランドリー&カフェ ホワイトリリー]と少しかすれた白文字。まばらに駐車されている車の脇を通って、店内に入る。
立ち並ぶ数多くの洗濯機は、圧巻な佇まい。壁際の乾燥機は、常に利用客がいる。稼働中の機械たちを横目に、まっすぐ進むと低い壁と観葉植物で仕切りになっており、店内奥がカフェスペース。そもそも、洗濯や乾燥の待ち時間に利用する目的のカフェだが、知っている者たちはカフェが目的。円形や四角のテーブルには、それぞれ客がいて、話をしたり、本を読んだり、様々な時間の使い方。
「あ、いたいた」
アケビの待ち合わせ相手は全員揃っているようだ。テーブルに座る角から、アスター(男性)一番若く長い髪でメガネをし、いかにもマニアな風貌。レンブ(男性)中年層、会社役員をしているらしい知的な人。グラナジャ(女性)主婦の傍ら、昔の科学技術を好む、醸し出す色気がすごい存在。マーコット(男性)機械いじりが趣味だそうだが、多くを語らず。ただ、皆が興味あるのは相手ではなく解析技術。世界で誰も解析出来ないことを自分たちでやれないか?それが楽しい。
「みんな、早いね。仕事終わってきたんでしょ?」
「早退」
「"直帰する"と言ってきた」
「自宅、近いのよ」
「トイレに隠れて、終業と同時に出た」
「しかしさ、何度顔合わせても、チャットで話しているような文字欄が見えてくるよ」
アケビには、会話がこのように見えている。実は、集まっている仲間も文字で会話している感覚だった。
[アケビ:まず、注文してくるよ。ユリネさんに叱られる]
[アスター:その方がいいね]
[レンブ:無難だよ]
[グラナジャ:ユリネママは、怖いもの]
[マーコット:(うなずいている)]
アケビは、店の奥にある受付に向かった。明るめの木製カウンターには、飲み物や軽食が注文でき、写真付きメニュー一覧が置いてある。
ホワイトリリーのオーナーであるユリネが、エプロン姿で応対してくれた。
「いらっしゃい。いつもの仲間と一緒?」
「ども。なかなか他にいい場所ないし、ここのカフェスペースが気軽で誰にも邪魔されないからいいんですよ」
「うちとしては、洗濯もして欲しいんだけどねぇ。他の一般客も、軽く食べる連中が多い。まったく……」
「そりゃ、自家製が多いからでしょ。その売り出し中の自家製ジンジャーエールとチリドッグを。チリコンカン多めで」
「代々続く店だから、一族の味を守りたいだけよ。すぐ出来るから、そこで待ってて」
「は~い」
アケビは、調理中のどっしりとしたユリネの背中を眺めつつ、他の店員の動きも見ていた。このホワイトリリーというお店は、ユリネで4代目だそうで、周辺地域でも名が知られており、時々、ユリネを中心とした地元の個人店舗の会合がこのカフェで行われている。
「へへっ、ユリネさん元締めなんじゃないの」
思わず小声で独り言がこぼれるアケビ。
「何か、言ったかい?」
商品をトレイに乗せ、持ってきたユリネが声をかけた。
「ん、カウンターから見えるランドリー方向の照明がビンテージ感があって、和みやすいなぁと」
「それは、単に古いって言うんだよ」
「いえ、味わい深いというやつ。長居したくなるもん」
「よく言われるよ」
アケビは支払いを済ませ、テーブル席に戻った。
[アケビ:いやいや、お待たせ。では、早速一口。おっ、ピリ辛。いや、辛っ!ジンジャーエールも、違う辛さがっ!]
[アスター:チリドッグか~]
[レンブ:いいよな。チリコンカンをソース代わりに、どばぁ~ってかけてくれる]
[グラナジャ:ほら、口元拭かないと]
[マーコット:わんぱく]
[アケビ:あ、今日は、昼もホットドッグだったな。味違うから、いいか]
[アスター:気付けよ]
[レンブ:あるあるだろ]
[グラナジャ:お野菜も食べてね]
[マーコット:明日も、同じかも]
集まっている仲間も、それぞれ頼んでいた商品を食べ進め、話し合いを始めた。
[アケビ:早速だけど、みんなに解体されたての物を渡しておくよ]
[アスター:待ってました!]
[レンブ:通販だと高額だからな~]
[グラナジャ:貴重だわ]
[マーコット:いひひ]
[アケビ:許可を得てもらってるので問題ないよ、この樹脂脳核たちは]
[アスター:ありがたや、ありがたや]
[レンブ:お、すごいな。接続端子に傷なし、樹脂自体も欠損がない]
[グラナジャ:ちょっと、嗅ぎたくなるわ]
[マーコット:ありがと]
このアケビが"仲間"と呼んでいる人たちは、アンドロイド頭部にある樹脂脳核を読み取り、どのような記憶を持っていたのか、ただ、それを知りたい人の集まり。そもそも、アンドロイドが稼働していた頃の資料が乏しく、コンピュータネットワーク上では、過去アンドロイドは、どのような存在だったか調査することが一時期ブームであった。徐々にデータが集まりだしたが、アンドロイド解析は読み取りエラーとなり
人の興味が薄れていった。この5人は、ネットワークで知り合った比較的近い地域にする者たちで、アケビが樹脂脳核を持ち出せる環境にいるので、まだ諦めずに活動を続けている。また、それぞれ名前が本名かどうか知らないが、それには興味がないため、気にしておらず、『サークル名を決めるか?』という話が一度あったが、皆が納得する名称が出ず、うやむやになっている。
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