第6話 ナス母艦侵入作戦:ルートN
地下通路は、湿ったナスの匂いに満ちていた。
天井からは蔓が滴り、壁面には無数の“ナスの芽”が光を放つ。生物というより、都市そのものが“ナス化”している——そんな錯覚すらあった。
「かなり、ナスに汚染されてるわね……」
ルカがカマを構え、前を警戒しながら呟いた。
御園は無言でスコップを握り直す。スコップの先端には、先ほど倒した“千両”の紫の粘液がまだ付着していた。
「前方、熱源反応あり。1体、移動速度はナスにしては早いな、こっちに向かってる」
ケイがタブレットを確認する。
「……来る」
その言葉と同時に、通路の奥から奇怪なナスの足音が響く。
現れたのは、“多足型ナス兵ヘビナス”
——ナスの胴体に、細長い無数の脚が生えた異形の敵だった。脚がカシャカシャと動く様子は虫の様だった。
「ツルじゃなくて足でくるの……ナスの進化がバグってない?」
ルカが、呆れたように言う。
御園が身構える。
「……ムカデみたい……」
「気持ち悪い言い方しないでよ!!」
みつばが叫び、フライパンでナス足を弾き飛ばしながら突撃した。
「あぁー震えが止まらない!もう包丁が、高周波ブレードみたいになってるわ!!」
包丁が一閃。三本の脚が切断され、敵がバランスを崩す。
その隙を突き、ルカが地を滑るように前進し、カマで他の足を斬り裂く。
「動きは早い。でも柔らかいわ。御園、回って!」
「……任せて」
御園は横から飛び出し、全力でスコップを振るった。
ザシュ!
スコップはナス兵の外皮を捉えていた。
「……“土に還れ”——《グレイプコード》!」
「なにそれ!?」
「……ケイのまね……」
振り下ろされた一撃が、ナス兵の頭部を叩き潰した。
頭がめり込み、胴体がビクリと痙攣する。そして——爆ぜた。
ドガァァァン!
ナス兵の破裂とともに、紫の汁が通路中に飛び散る。
「くっ、爆発型か……! みんな大丈夫?」
ルカが叫ぶ。
だが、その直後。
床が、ヌルリと動いた。
「床……!? もう一体いるぞ!!」
ケイが叫んだ。全員の足元に絡みつくような感触。
次の瞬間、地面から生えてきたのは、ずんぐりとしたナス。
——“潜伏型ナス
地中に潜伏し、足元から襲いかかるトラップ型のナスだった。
「床からって、どういう原理よ。なんなのこのダンジョン!!」
みつばが悲鳴を上げながらフライパンで足元を叩く。
「除草剤を使う!」
ケイが手早く腰のスプレータンクを交換する。
「“ウィザー・レクイエム”《枯界葬送》! 起動!」
ゴォォォォッ!
放射される青白い霧が、床を這う根に振りかかる。
信越水ナスが奇声を上げながら倒れる。
「この道は、農道じゃない……戦道だ!」
御園は焼け焦げた様になったナスの隙間をすり抜け、前方へと駆け出す。
そして、その先に——現れた。
巨大なナス状の繭。それはまるで胎児のように脈動していた。
「……あれは何っ!」
ルカが息を呑む。
「何だか解らないが。今なら破壊できる! ……!」
御園が一歩踏み出す。
その時だった。
ピシッ!!
繭の中から、全身を茄子の葉と茎で包んだ異形の存在が現れた。
頭部には茄子の王冠。背には蔓の翼。眼はすでに“人間”の形をしていなかった。
「ヒト……?」
「……違う……。ナスに同化された元人間……」
ルカの声は震えていた。
「……私の元同級生ひかり——。かなりのナス好きだったけど、まさかナスと融合してるなんて……!」
ひかりは、かすかに笑った様に見えた。
そして、喉から茄子の種を咳き出した。
「いずれにしろ戦わなきゃいけなそうね」
スコップで種を弾き、御園が言った。
「こっちは、命を削って生きてるんだよ」
そして、全員が構えた。
アレルギーズ vs ひかり
ナス母艦に向かう最終防衛戦が、今、幕を開ける。
「突撃!」
御園の号令と共に、戦場が再び、紫に燃えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます