お荷物扱いで追放された支援職、実は誰より強かった件について
中野森
覚醒編
第1話
その日、俺はパーティーを追放された。
理由は──《鉄翼の星屑》のお荷物だから、と。
「……ユリウス。すまんけど、今日限りで抜けてくれ」
王都ギルド支部、作戦会議室。俺たち《鉄翼の星屑》の拠点でもあるこの部屋に、重たい空気が流れていた。
パーティーリーダーのダリオは、視線を合わせずに言った。
俺の幼馴染で、昔から無鉄砲な前衛剣士だった男だ。そのくせ、こういう時だけは妙に煮え切らない。
「今、俺たちは高層ダンジョンに挑んでる。分かるだろ? もうお前の力じゃ対応しきれないんだよ」
その言葉は、俺の胸に突き刺さる。役に立ちたいと、常に思っていたのに。
「……皆の役に立てるよう努力はしてきたつもりだよ」
そう返すのが精一杯だった。
「ノエルもBランクに上がったし、レイナとシズクはもうAランク目前だ。だけど……お前はCのまま、足踏み状態だろ」
「たまにしか詠唱していないし、それ以外はただ立っているだけじゃないか。正直お前が足引っ張ってる」
ダリオの言葉に、ノエルが畳みかけるように続ける。無表情な後衛の弓使い。言葉には一切の容赦がない。
「……」
いつかこんな日がくるかもと覚悟していたはずなのに、心臓が鈍く痛む。こうも簡単に“いらない”と切り捨てられるのか。
最後に、レイナの目を見た。
俺の隣の家に住んでいた、幼馴染で……かつて「将来結婚しようね」と口約束した相手。その琥珀色の瞳が、悲しげに揺れているように見えた。
「……ごめん、ユリウス。あなたが悪いんじゃない。だけど……今のあなたを見てるの、つらかったの」
冷たい声ではなかった。ただ、優しさの皮をかぶった拒絶だった。
(俺なりに頑張ってたんだけどな)
魔力量が少ない俺は、支援魔法士の中でも落ちこぼれだった。
効果の高い魔法は使えないし、打てる回数にも限りがある。
どうしたら効果的に支援できるのか研究と鍛錬を重ね、魔力が尽きることなんて日常茶飯事で――
そんなある日、魔力が枯渇しきった瞬間に《無詠唱スキル》が目覚めた。
《無詠唱スキル》は、修得条件が難しいにも関わらず、発動時の効果が低く、使い勝手も悪いという理由で世間では「ハズレ」と軽視されている。
だが、俺はそのスキルに賭けた。鍛えれば何か変わるかもしれないと。
魔力枯渇状態を意図的に作り、毎日、毎日、訓練した。
さすがに詠唱魔法に引けを取らないとまでは言えないが、それなりに使えるものになった。
なったと思っていた。
──思い上がっていたんだな。
「……わかったよ。今まで、ありがとな」
俺はそれだけを言って、部屋を出た。
ギルドカウンターに足を運ぶと、馴染みの受付嬢が驚いたように顔を上げた。
「ユリウスさん? 今日はパーティーの皆さんは……?」
「抜けてきた。今後はソロで活動するから」
「……確認します。現在の登録ランクはC……ですが、パーティー脱退後は個人実績に基づき再評価となります」
水晶端末に映るデータを確認した後、彼女は少し気まずそうに言った。
「……すみません。ユリウスさんの単独実績が不足しているため、暫定的にDランクへランクダウンとなります」
……そうだよな。
皆といたから過大評価されていたのが、ようやく身の丈に合った評価になったということか。
「了解、またCに上がれるように頑張るよ」
そんな日が本当に来るかは分からない。ただひとつ分かっているのは、
俺のスキルは、確かに強くなっている。
ギルドの出口に立つ。
夕暮れの王都に、風が吹いていた。
俺はDランクに降格された。
パーティーを追放された。
お荷物扱いされた。
でも、それで終わりじゃない。
ここからが、始まりだ。
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