5 写しあった写真
第19話 ほんとうは、そっちがほんとうなのかも
「せっかくスマホ出したんだからさ」
「お互い、写真、撮っとかない?」
「ああ」
「じゃ、行くよぉ」
と圭の対応が早い。
あ、ちょっと待って、と、前髪を右手でぺらぺらっとして整える。
でも、バスの待合所の小屋のベンチに座って、横向いて撮るのだから、そんなに写り映えを気にすることもないか。
手を膝の上に下ろしたら、圭は自分の目の前にスマホを構えた。でも、近すぎたのか、ちょっと、いや、かなり上半身を反らせて、それでぱちっと撮る。
「へへっ」
照れたのかどうか。短く笑って、圭は写真を送ってくれた。メッセージはなしで。
「へえ」
すなおに感心した。
唇をもの問いたげに閉じて、目をぱっちり開いて、こっちを見ているセーラー服の少女。
たしかにちょっと猫っぽい。
リボンがズレているのは、尻を椅子の骨組みに落っことしてあばれたり、胸当てをぱたぱたやったりしたのだから、自業自得で、しかたない。
それに、背後が暗くて、そこから白いセーラー服の少女が浮き上がって見えている様子が、昔に撮った古い写真みたいに落ち着いていて、かっこいい。
セピア色加工とかしてみようか、と思うだろう。
素材が自分じゃなければ。
いや、素材が自分でもやってみてもいいと思うくらい、圭は上手に撮ってくれた。
次はこちらの番だ。
「じゃ、撮るよ」
圭のようにうまくは撮れないと思う。でも、現代の技術に任せれば、そんな失敗作も撮らずにすむだろう。
圭は美聖のスマホに向かっておめかしの表情をした。
ふぅん、と思う。
目を細くして笑って、口を大きく左右に引いて、という、笑顔の表情ではない。
目を開いて、口は小さく軽く結んで、それでちょっと首を傾げている。
これが、この子の勝負っぽい表情なのか、それともそこまで考えていないのかは、わからない。
「はい、チーズ!」
で撮る。相手が写真を共有してくれたんだから、こっちも送らないというのはないので、すぐに送った。
送ってから、写真の出来を確認して、出来が悪かったら「もう一枚」というので撮りなおしてもよかったかな、と気づく。
でも、そんなに悪くなかった。
たしかに、現代の技術に任せれば、そんな失敗作にもならないのだ。
圭の後ろは美聖の側よりは明るい。だから圭が撮った美聖の写真のように「シック」な感じにはならない。でも、このぼろぼろのバスの待合小屋も、どこか、美聖や圭が生まれるよりずっと前から建っている古い家の一部屋みたいに写って、そのなかに圭は溶けこんでいるように見える。
いや。
ほんとうは、そっちがほんとうなのかも知れない。
それが実際とは違うと感じる自分のほうが、ほんとうは「違う」のかも知れない。
ただ、不満なのは。
圭が、胸を張って、手を背中の後ろに回したせいか、肩の後ろの髪のくるくるがほとんど隠れてしまった、ということだ。
圭の髪の毛の色が背景の中途半端な暗さに溶けてしまって、頭の後ろから肩の上のあいだでは、その毛が巻いているのがわからなくなっている。
「うーん」
圭は不満なのかどうなのか。
もし出来が悪ければもう一枚撮るよ、と言おうか、どうしようか。
でも、圭の関心は、違うところにあったらしい。
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